笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

指をまわす、その時の、楽器ごとの個性。

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 クラリネットの練習を続けている。年末年始は時間に余裕があるので、集中的にトレーニングした。
 何をしたかというと、楽譜と運指の対応をしっかり覚えようと、黒本でジャズスタンダードのテーマを片っ端から吹いてみた。「L-O-V-E」ぐらいなら何の問題もない。「Confirmation」は無理。3巡くらいしたらそこそこ吹けるようになって、10巡くらいで上手くなってくるんじゃないかな。そんな気がする。

 クラリネットはフルートと同じベーム式のキィシステムが採用されている。なので運指はよく似ているのだけど、共鳴構造の違いのせいで、クラリネットは中音域と低音域の運指が違う。これに慣れないと、クラリネットは吹けない。
 あと、集中的に練習してみて気づいたのは、フルートとクラリネットでは同じ指でも、うまく回るところと回りにくいところがある、ということ。サックスと比べても違う。あー、この感覚、サックスを覚える時にも感じたなあ。これ、なんでなんだろう? 不思議。
 これ、どう説明すればいいだろ? ええと、例えば左手の中指と薬指、右手の人差し指、中指、薬指、という順で音階を下る時に、フルートを演奏している時の力加減、クラリネットを演奏している時の意識の運び方、サックスを演奏している時の、指が滑っていかないようにブレーキをかけるポイントが、3種類の楽器で全部違うって感じ。
 で、僕の場合だとフルートは、どの音域、どんな動きであれ、概ねスムーズに指が回る。特に意識してコントロールすることもない。しかし、サックスだとちょっと違う。左手の中指・薬指が、音符の流れによっては時々、停滞するのだ。そしてクラリネットだと、左手よりも右手が難しい。

 思うに、理由はふたつあって、ひとつは楽器を構える向き、もうひとつはキィの重さ。
 人間の指というのは、普段の生活の中で普通に使う分には、その重さなど意識することはない。しかし、楽器の演奏などで、通常よりハードな運動をさせようとすると、ちょっと事情がかわってくる。
 その指の重さを意識するのは、特にフルートだ。フルートは管体を横にむかって構えるので、当然、管の向きは水平になる。ということは、その水平の管に対して垂直にストロークするキィを操作する指は、やはり垂直方向の動きを強いられることになる。これがフルートという楽器のユニークなところで、トーンホールを開ける動作、つまり、キィを開放する動きの時に、指を素早く持ち上げる筋力がないとうまくいかない。
 反対に、管を垂直方向に構える楽器は、キィと指が水平方向に動く。サックスやクラリネットがそうだ。これらの楽器を演奏する時、指自体の重さは操作にあまり影響しない。重力によって生じる抵抗がキィの運動とは異なる運動軸にしか発生しないからだ。

 そしてもうひとつは、キィの重さ。
 サックスのように大きなキィに使われるスプリングは、フルートのように小さな楽器のキィに比べて強く、キィタッチが重い。すると当然、キィを押さえる時に必要な力は大きい。特に小指で扱うキィなど、慣れないうちは知らず知らずの間にキィが浮いてしまうことさえあるほどだ。僕は基本がフルート吹きなので、キィを押さえる時にかける力のイメージが弱い。サックスを久しぶりに吹く時には気をつけないと、押さえているはずのキィが浮いてきて音が鳴らなくなるので、注意が必要だ。
 そして、さらに注意が必要なのが、管体を直接指で押さえるトーンホールだ。クラリネットの右手は、小指をのぞく3本のうちどれかがキィを押さえると、ミbあるいはシbのキィを連結しているリンケージが作動するが、この機構を実現するための右手側のキィ3つが一体構造になっている。これが案外、曲者で、すでにキィが下がっているときのキィタッチと、上がっているときのキィタッチが、微妙に違うのだ。
 スプリングの強さを含む、このキィタッチというのは実に重要だと僕は思っていて、特に高速で音階を奏する時など、その正確性に大きな影響をもつと考えている。キィタッチの違いによるキィおよびトーンホールの開放/閉塞にかかる時間の微妙なラグに気をつけないと、演奏が乱れるからだ。一般に、木管楽器の演奏では、キィ(というか管体)から指が離れすぎない方がいい、と主張されるが、それは指がキィまでの距離をキャンセルするのに必要なタイムラグが演奏の乱れを呼ぶからに他ならない。0.01秒になるかならないかという時間が影響するのだから、音楽の演奏というのは実に繊細である。そして、そのわずかなラグを生むのは、指⇔キィの距離だけではない。キィタッチの違いによる、ちょっとした指の運動の差もまた演奏に影響し、もちろんその乱れは、本来あるべき音楽に対して早すぎても遅すぎてもいけない。

 持ち替えのない、専業の奏者なら、楽器ごとのキィタッチの違いなど問題にしないのだろう。しかし、僕の場合はそういう訳にいかない。木管はひととおり演奏するし、金管を吹くこともある。
 もっとも単純なアイデアは、どんなキィであれ全く影響をうけない指の膂力をえる、という脳筋的なものであろう。そして、理想的な解決方法でもある。だって、指が楽器の影響を全く受けないのであれば、どんな楽器でも即座に持ち替えることができるんだもん。しかし・・・なかなかそういう力はつかない。目指してはいるんだけどね。
 そう言うと、サックスみたな重たいキィが大変なんだろうと思われるかもしれないが、僕の感覚としてはむしろ逆に、トーンホールを直接押さえるような、抵抗感が全くない場合のコントロールだ。指がまわりすぎてしまう。こういう場合に、指にブレーキをかけるコントロールが、本当に難しい。クラリネットの右手とか・・・楽器が多少重たくなってもいいから、サックスとかフルートみたいなシステムにしてもらえないかな? なんて思う。
 同じ難しさがあるのが、EWI。タッチセンサーの、ゼロ抵抗の運指システムで、キレイに高速スケールを演奏するのって、なんであんなに難しいんだ? もともとEWIで慣れている人なら、問題を感じないんだろうか。分からん。
 まあ練習するしかないね。頑張りますよ。

 しかし、こういう繊細な身体感覚を言語化するのって、めちゃくちゃ難しいな。書いてはみたけど、多分、読んでくださった皆さんも「?」って感じだろう。もともと、僕と同じ感覚を普段もっている人なら、わかるわかる、と思って下さるだろうと思っているのだけど、そうじゃない方からは「何を言うとるんじゃ」とお叱りを受けても文句言えない気でいる。
 でも、こういうのを書くのは、個人的には面白い。またチャレンジしてみたいと思う。