笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

管楽器の演奏における、「息のささえ」って何んスかね?

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 中学校での部活動を含め、管楽器を演奏する際によく指導されることのひとつに、「息のささえをしっかりする」というのがある。
 これねー、指導する側は気軽に使ってしまう言葉なんだけど、指導を受けている側のビギナーさんにはきちんと伝わってるんだろうか? ってよく悩む。息のささえって何んスかね? 吹奏楽器の世界によくある、他の世界では通用しないタームのひとつだと思う。
 管楽器の世界に30年以上いる僕は、何となーく、息のささえが大事ってことは分かってる。実践している気でもいる。息のささえがきちんとすることによって可能になることや、逆に、息のささえがしっかりしていないとどんな現象が起こるかも知っている。しかし、「息のささえについて、並の中学一年生なら誰でも分かるように説明せよ(500字以内)」みたいな課題を出されたら赤点とっちゃうかも。

 しかし、あえて試みてみよう。息のささえって何んスかね? その問いに、応えてみようじゃないか。できるかな?

 まず息のささえというものが、演奏や楽器の音響の、何に影響するのか。思いつく順に挙げてみると、音色の力強さと均一性、音の遠達性、ピッチの安定性・・・などだろうか。楽器の鳴りの太さ、という言葉で言い換えることもできるかもしれない。そして、今挙げた現象に関わる、息についての要素が何かという話になると、演奏家が使える息の量や圧力の範囲の広さ・コントローラビリティに結びつけることができるだろう。

 息についてのことなので、肺や横隔膜などによって作り出す息の流れ、とりわけ呼気が問題のように見えてくるが、管楽器に送り込むブレス(息)の圧力や量は、ポンプとしての胴回りだけが問題なのではなく、息の出口にあたるアンブシュアのパワーや制御も大切だ。
 しかし、まずは肺や横隔膜が送り出す呼気について考えてみよう。
 さて、例えば音色の力強さに対するイメージが乏しい奏者やビギナーによくあるのが、「息の力が弱すぎて楽器が本来の音色で鳴らない」という現象。これは、息を送り出す横隔膜の力が足りなかったり、息を吐くための力の入れどころが分からなかったりして、十分なスピードや圧力の息をつくりだす力がそもそもない、というパターンだ。奏者の体を、屋外の掃除に使うブロワーになぞらえると、エンジンの出力が弱い、って感じ。
 ブロワーであれば、砂埃や落ち葉を吹き飛ばす力がなければ、それは道具として用をなさない、ということになるに違いない。動力の交換が必要である。同じように、管楽器奏者であれば、必要な圧力やスピードの息を吐き出せるように、トレーニングしなければならない。
 で、力強い息が吐ければそれでいいか、というと、それだけでは十分ではない。じゃあどうでなきゃいけないの、というと、表現に応じて息をコントロールできなければならない、という条件がつく。
 ロングトーンのトレーニングをするシーンを思い浮かべて欲しい。比較的扱いやすい強さ、例えばfやmfのあたりの強さで、♩=80ぐらいの早くも遅くもない速度で、全音符ひとつの、高くも低くもない音をロングトーンするのは容易だろう。しかし、極端に長い音を、リリースまでしっかり、強さを保って、揺れずにロングトーンする場合はどうだろう。あるいは、極端に弱い音(pppとか!)を、タイミングどおりアタックし、やはり強さを保って揺れずに、よい音色でロングトーンするのは? もうひとつ例を挙げると、極端に強い音(fffとか!)で、アタックから正確なピッチで吹ける?

 ここで大切なのは、皆さんもおわかりの通り、コントロールだ。
 息のコントロールについては、ここまでで問題にしている息をつくりだす力というファクターとは別に、アンブシュアが問題になってくる。
 再びビギナーにありがちな現象を挙げてみるが、例えばクラリネットなどで、楽器を強く鳴らそうと圧力の高い息を入力したけれど、アンブシュアの筋力が弱くてその圧力をうけとめきれずに緩んでしまう、というのがある。結果、どうなるかというと、マウスピースの横から息漏れをおこしたり、ピッチが維持できなくなったりする。
 楽器が受け止められる息の量と圧力には限界があるが、それは楽器だけで決まるわけではなく、奏者のアンブシュアの筋力とのバランスが大事だ。楽器の側にはまだ余裕があっても、奏者のアンブシュアが弱く、息の圧力を支えられないと、楽器は十分に鳴らないし、ピッチや音色も乱れる。
 だから、僕たち管楽器奏者が「息のささえ」ということを問題にする時、単純に胴回りのポンプの部分だけが大事なのではなく、アンブシュアや楽器の抵抗感を含めた全体のパワーバランスとコントローラビリティのことを語らないわけにはいかない。
 まずは、胴回りの問題として、最低限のラインを確保したうえで一定の速度、一定の圧力の息を送り出すことができなければならない。そしてその上で、入力した息の速度や圧力を支えられるアンブシュアが獲得できていなければならない。
 畢竟、息のささえとは、そういうことだ。

 というわけでね・・・息のささえについて説明してみたけど、やっぱり難しい。
 そうだな、うん、全然説明できないわけじゃないけど、簡単には言えない、っていうのは確かだ。もしこれを理解してもらい、実践できるところまで面倒みるとしたら、多少長い期間をかけて、対面で指導する必要があるだろう。息のささえをきちんと作り上げ、よいトーンを作り上げる基礎技術として獲得するためには、息のささえという課題の周囲にあるいくつかの問題を、バランスを取りながら解決していく必要があるからだ。
 これをね、最初に書いたように、「息のささえについて、並の中学一年生なら誰でも分かるように説明せよ(500字以内)」っていうのはやっぱり、とんでもなく難しい。

 ただ、僕はよく中学生に、こんな風に言う。

1.管の太さと同じ太さの息を入れる。
2.「かまぼこ」の形の音になるように気をつけて、ロングトーンする。
 *「かまぼこ」は、「うまい棒」だったり「ポッキー」だったり「角材」だったりする。
 *タンギングでは、「かまぼこ」によく切れる包丁で切れ目をいれる、だけ。
3.息に体重をのせる。
4.息の圧力と楽器の抵抗をバランスさせる。
5.アンブシュアは、パッキンである(水漏れしてはならない)。
6.アパチュアは柔軟に、アンブシュアは強固に。

 1.、2.では、鳴らすべき音のイメージ、吹き込むべき息のイメージを、視覚的に伝えようとしている。そして、3.も、息のイメージを重さの感覚で表現している。5.と6.は、アンブシュアについての注意。
 結局、イメージで伝えた方が、伝えやすいし、伝わるんだよね。
 ただ、やっぱりイメージにすぎないよな、と思いながら指導していることもある。例えば1.だけど、フルートだと「管の太さの息」では絶対に太すぎる。フルートは唄口に対して半分の幅の息を入れるのが理想的だと僕は思っていて、その幅は多分、3mm程度。まあ、実際にはもう少し太い息が入っているだろうけど、それでも、フルートの管の一般的な直径である17mm前後に対しては、まったくもって、細い。クラリネットだって内径は14mm程度と言われるが、そのマウスピースのサイドレールの幅はもっと狭いだろう。だからやっぱり、所詮はイメージだ。実際の商品とは異なる場合があります、ってわけ。
 しかし、しかしよ? やっぱり傾向として、ビギナーや中学生は細い息をいれがち、という現実があるので、「管の太さで」とか「リードの幅で」とか「ベル径に見合った息を」みたいな言葉がけをする。すると、少なくとも「息の入れ方に問題があるらしい」ということには気づいてくれて、それでいい音が鳴れば結果オーライってことになるでしょ。

 この話を、中学生に伝えるという前提を意識して書いているが、まあ別に、彼らの全員がプロフェッショナルになる訳でもなければ、そもそも高校以降も楽器を続けるかどうかさえわからないわけだし、無理に分かってもらう必要もないなー、なんていう風にも思ってはいるんだけどね。中学校の部活動は基本、楽しく演奏できればそれでいいと思うよ。ただ、どうせならいい音で吹きたいじゃない? そうするとやはり、ある程度は息の力が必要になるし、その力をコントロールすることも大切になってくる。僕はこのことを、自分の身の回りにいるビギナー演奏家に対面で伝えるけど、そうじゃない人は、楽器は違ってもいいから、身近にいる上手な管楽器奏者に尋ねてみるといいと思うよ。「そんな人、いねえよ」と怒るかもしれないけど、探してみればいるんじゃないかなあ。で、探してみてどうしても見つからなかったら、僕を呼んで下さい。