笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

VENN、鳴ってきました。



 年始に、もうちょっとうまくなろうと本腰入れて取り組み始めたサックス。天気や体調やスケジュールによっては吹けない日もあるけれど、少なくとも週に一度くらいは触っている。音のデカい楽器なので、当然、自宅で吹くというわけにもいかない。民家から遠い公園などで練習している。自宅の近所にはそういう場所がないので、基本、車で出かけることになる。トランペットみたいに楽器が軽くて小さければ、自転車ででかけることもできるのだが、テナーサックスのサイズと重さではさすがに無理だ。あー、アルトほしい。
 YAS-62を持っていた頃は、バイクに乗っていて、ケースのストラップを短めにし、リュックみたいに背負って出かけたこともあった。あれ、テナーは無理だ。でかすぎるよ。事故がこわいって。ストラップが肩に食い込んで痛いし。テナーを背負ってチャリやバイクってのは、どう考えても厳しいなあ。あー、アルトほしい。

 それはともかく、かなり体もサックスに馴染んできて、今はまだ出来ないことにチャレンジしようという意欲がでてきた。グロウル、ハーフタンギングフラジオレット・・・他人が演奏しているのを聴いているだけだと、そう難しそうに感じないが、やってみると案外、難しい。
 特にハーフタンギング、ただ単に、舌先でリードにさわりながら吹くだけ、とはいいながら、やってみると中々できない。舌でリードに触れようとすると、アンブシュアがくずれるし、息も乱れる。グロウルも、中音域はすぐにできたけど、高音と低音は息の流速のコントロールが難しく、思うような音色にならない。ピッチをキープしながら、いい音色で吹くには、やはりトレーニングが必要だ。
 そう、ピッチだ、ピッチ。フレーズや曲をさらっていて、「どうもイントネーションがよくないな」とずっと思っていて、それが近頃、我慢できなくなってきた。なので、この頃はチューナーとにらめっこしながら吹くことにしているのだけど、自分が思っていたよりずっと音痴だったことを思い知らされた。こらあかんわ、人には聴かせられん。

 原因は、色々ある。開きの大きなマウスピースに柔らかいリードを使っていること、シンリップとファットリップの中間のような、半端なアンブシュアで吹いていること。そもそも、そのアンブシュアの筋力がまだ十分に回復していないこと。
 柔らかいリードは発音が容易な反面、ピッチのコントロール幅が広く、自分できちんと制御しないとまともなイントネーションでは演奏できない。特に、へたりかけのリードなんかだと最悪で、普通に吹いてもまともなピッチで鳴ってくれない。
 逆に言うと、ピッチのコントロールの限界幅を越えてきたリードはサヨナラだという風にも言える。僕の、リードコンディション判断の材料のひとつである。コシが抜けて音の芯がなくなったリード、物理的に破損しているリードとともに、低音右手、高音左手のイントネーションを制御できないリードは、バイバイだ。

 これはイイ、というリードでも、演奏時間にして20時間程度が賞味期限だと僕は思っている。消費期限だと、40時間ぐらいかなあ。物理的に破損しなければ、消費期限を越えても音ぐらい出るけど、シビアなピッチコントロールを伴う練習はもうできない。
 賞味期限、消費期限という意味に置いては、樹脂リードは生リードよりはるかに優れていて、封を切ってから2年くらいたつレジェールは、まだまだ十分に鳴るし、ピッチもコントロール圏内だ。演奏時間がどれくらいなのかは、ちょっと計算できないけど、100時間は間違いなくいっているはずだと思う。
 そうそう、先だって購入したVENNだが、買った当初は鳴りにくかった中音域がこなれてきて、全域にわたってよく鳴るようになってきた。いいリードだね、これ。音色も、レジェールに比べて太い。個人的な見解ではあるが、ジャズセレクトとグラコンの中間ぐらいの音色であるように思う。重量がちょっと重くて、ついクセで咥えた時に落としそうになってしまうことと、エッジがシャープで口の中を切りやすいことを除けば、大きなデメリットはないように感じる。素晴らしい。
 現時点で、何時間吹いたんだろう。細かくカウントしていないので分からないけれど、感覚としては、20時間弱ってところだろうか。当たり前だが、コンディションに致命的な劣化はない。ここからまた、少しずつ動いてはいくだろうけど、生リードに比べれば変化はずっとゆっくりだ。どこかで急激な劣化がおこる、というようなことがなければ、100時間は問題ないだろう。
 雰囲気的に、ヤマハのシンセティックリードによく似ているので、もし同じような耐久性を持っているならば、320時間の使用には十分耐えると予想できる。
 VENNの価格が、テナーの生リード五枚入りの価格とほぼ並ぶわけだが、その生リードがすべてツカエルものだと考えて、一箱あたりの賞味期限が100時間ととらえることができるとすると、樹脂リードは生リードと比較して、3倍以上のコストパフォーマンスを発揮していると考えることができる。そして、一箱五枚のリードのうち、すべてがいいリードではないことを勘案すると、樹脂リードのコスパは驚異的だ。

 そうすると、後はリードとしての性能が問題だよなあ。
 いつもの主張を繰り返すが、アタリの生リードの鳴りの太さ、フレキシビリティ、音色の豊かさには、樹脂リードはまだ敵わない。
 薄い響きをつくりやすいレジェールは、ファットで力強い音色が出しにくいし、反対に芯の太い音を得意とするVENNは、スッと影にまわるような薄いサウンドをつくりにくい。もちろん生リードだって、そのすべてがいつも容易にできるかと言ったら、そんなことはないのだけど、アタリの生リードでは樹脂リードに比べると柔軟に音色を変化させられるように感じる。
 あと、特殊奏法も、生リードの方がやりやすいかな。いい意味でのいい加減さが生リードにはあって、普通でない吹き方をしても、「はいはい、分かりましたよ、しょうがねえなあ」って感じで鳴ってくれる。反対に樹脂リードで特殊奏法を使おうとすると、「それは正しい吹き方ではありません」とリードが主張してくるような気がして、吹きにくい。

 そういう訳で、当面は生リード・樹脂リード併用という体制で運用していくつもりでいる。しかし、人前で吹くわけじゃないから、樹脂リードで練習するのが中心になるだろう。普通の練習は樹脂リードでやって、特殊奏法の練習が難しいと感じたら、生リードに切り替える。冬までには、全域でグロウルがきれいに鳴るようにしたいな。あと、中途半端だったシンリップ、ファットリップも、それぞれのアンブシュアをきれいに整えるようにしたい。で、ファットリップがきちんとできるようになれば、ハーフタンギングももうちょっと楽にできるようになる気がするのだ。がんばろう。