笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

公立学校の吹奏楽部は、金管バンドでいいんじゃないか? って話。

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 最近、「隠れ教育費」っていう言葉があることを知った。原則無償であるはずの公立学校に通っているはずなのに、細々と徴収される教材費や、制服などにかかかる費用のことをそう呼ぶらしい。これが結構馬鹿にならない額になる、ということが、公教育の原則にてらしておかしい、という話のようだ。
 そうなんですよ、結構かかるんですよ。僕にも子どもがいるので、よく分かります。鉛筆や下敷きなんかのツールは個人持ちで仕方ないと思うけど、学校から強制的に選定・配布されるドリルだとか図工教材だとか、こういうのって本当に個人負担するべきものなの? って疑問に感じることが多い。
 どこまで個人負担で、どこから公費負担にするか、っていう線引きは、まだまだ議論の余地があるだろう。しかし、PTAについての議論などもそうだけど、今まで習慣的になんとなくやってきた細々したことを、見直していく時期にきているのは間違いない。そして、この「隠れ教育費」も議論の俎上にあげて然るべき項目のひとつだと思う。

 さて、僕はここ数年、公立中学校の吹奏楽部に、指導のお手伝いとしてお邪魔させていただいている。
 部活動も学校教育の一環として学習指導要領に位置づけが明記されているはず(体育は結構はっきり書かれていて、音楽はちょっとあいまいだなあと僕は感じる)なのだけど、ここでも金銭的な負担は発生してくる。運動部であればユニフォームや遠征の交通費、吹奏楽部では楽器の消耗品や教則本。これもほとんどの学校で個人負担となっているんじゃないかな。そしてそれは、結構、馬鹿にならない金額だと思う。
 僕が特に大変だと思うのは、クラリネットやサックスのリードだ。モノによるけど、2023年12月の時点で一箱4000円くらい。その一箱の中に、クラリネットやアルトサックスなら10枚、テナーサックス以上のサイズなら5枚のリードが入っていて、僕の感覚では、どんなにケチって使っても年に3~4箱は必要。
 仮に、3年生の夏のコンクールや秋の文化祭で部を引退するとして、中学校に在学している間に二年半の活動をすることになるとすると、10箱ぐらいは買わなきゃいけないわけで、すると中学生の間を通して負担しなければならない金額はリード代だけで4万円にのぼる。
 それに加えて、例えば学校楽器のコンディションが悪かったり、顧問や部の方針で小型楽器(フルート、クラリネット、トランペット)は自分で用意するルールになっていたりして、自分でマウスピースや楽器本体を買わなければならないとしたら、マウスピースはヤマハの4Cを買ったとしても5000円前後、バンドレンなら2万円程度、楽器本体はヤマハの最廉価モデルで10万前後の費用が追加で発生する。

 で、問題なのは、楽器によって消耗品等の負担額が違うっていうところ。
 吹奏楽における大型楽器(チューバや打楽器類)は、一見お金がかかりそうに見えるが、実は消耗品があまりなく、楽器本体を借りることができれば、そんなに金銭的な負担がない。一年生のときにオイルとグリスを買えば、よほど活発に活動する部でない限り、引退までもつんじゃないかな。楽器用のオイルとグリスも値上がりしてはいる。しかし、通常のグレードのものを選べば、2000円以内に収まると思う。オイルとグリス以外に、スライドオイルが必要になるトロンボーンであっても、3000円を越えることは決してないだろう。これは、クラリネットのリード一箱の値段にも満たない。打楽器なら、基本的なマレットやスティック類は学校にそろっているはずで、基本、個人負担しなければならないものはないはず。学校によってはスティックを一揃え、自分で用意するように言われるかもしれないけど、それだってよほど高価なものを選ばない限りは、1万円を越えるなどということはない。
 それに対して、木管のリード楽器は金がかかる。
 前述したとおり、昨今はとにかくリード代が高い。僕が学生に樹脂リードを推奨する理由のひとつはここにあるわけで、もうホント、ちょっと何とかしてほしい、と頭を抱えるくらい高い。

 このように、部活にも「隠れ教育費」的な負担があり、そして、同じ部活動の中でも人によってその負担額に、かなり大きな差がある。これは・・・やっぱり問題なんじゃない?
 そりゃあね、部員がみんなお金持ちならそれでもいいかもしれない。リード一箱なんて、はした金だっていうくらいに。でも、ここ数年、何校かの公立学校にお邪魔して、生徒さんと親しく話をさせてもらい、その中でクラリネットやサックスのリードの交換スパンを話題にする中で、リード代はけっこうな負担だと感じる人は少なくない、という現状を知っている。そして、そのことを直接話さなくても、コンクール直前に完全にコシの抜けたリードを使っていたり、マウスピースを口から離した時にリードのティップの向こうにエボナイトの色が透けているのを目にしたりすると(もちろん、リードは定期的に交換するものだということは指導されている)、僕は頭をかかえてしまう。

 ある程度は消耗品にお金を払わなければいけない、というところまでは了解するにしても、せめて同じひとつの部活動の中では、その負担額を均して不公平感を解消したり、適切なタイミングで消耗品を交換したりできるようにならないもんかな? 

 いや、そもそも、木管楽器を含む吹奏楽を部活動で行うのはやめて、消耗品の少ない金管楽器だけを使う金管バンドやファンファーレバンドに移行するっていうのはどうだろう。昔の指導者向けのバンド指導指南書には、まだ管楽器のそろっていない学校にどのようにして楽器を増やし、生徒の活動をどのように移行すればよいか、ということについての記述がある。その指導書には、まずトランペット・トロンボーン・基本的な打楽器類をそろえ、ファンファーレバンドを組織し、活動が安定したらそこへローブラスを加え、さらにその後に、吹奏楽なり金管バンドなり、発展させたいスタイルにあわせて楽器をそろえていくように書かれていた。それを、逆戻りしちゃう。
 中学校にある楽器って確か、学校備品に関する法律で「コレをそろえなさい」っていうのがあるんですよ、確か。そこに木管楽器が入っていたかどうか、ちょっと記憶が定かではないのだけど、その法律を一旦無視させて下さい。で、申し訳ないのだけど、そして木管吹きとしては寂しいのだけど、木管楽器はね、もう諦める。廃止。で、部活で行う管楽器の合奏スタイルを、ファンファーレバンドに戻す。そして、それを公立学校の部活で行う音楽系部活動の基本にする。
 もし、ファンファーレバンドでは物足りないようなら、トランペットをコルネットに差し替え、アルト(テナー)ホルンやバリトンホルンを加えて、金管バンドにしちゃう。奏法は基本、あまり変わらないのだから、普段はファンファーレでトランペットを吹いている生徒がアルトホルンに、トロンボーンを吹いている生徒がバリトンホルンやユーフォニウムに持ち替えたって構わない。
 金管バンドの魅力はいくつもあるが、経費的な面のことを挙げると、維持費が木管楽器に比べて大幅に抑えられる。入部時にオイルとグリスさえ買えば、2年半くらいは問題なく活動できるだろう。

 いやー、もうホントね、リード高すぎるって。
 もし現状を維持したいなら、つまり、吹奏楽部を公立中学校の部活動の中の、音楽部・器楽部門のメインに位置づけ続けたいなら、せめて、指導者を含む業界全体が樹脂リードの普及にもっと力をそそぐとか、会計面での運営方針を見直すとか、とにかくコスト面の不公平感を解消することは急務だと僕は思う。そして、それをしないならば、ファンファーレバンドに先祖帰りするとか金管バンドに移行するとか、あるいは全く発想を変えてリコーダーアンサンブルを積極的に導入するとか器楽合奏を発展させていくとか、そういうことしなきゃダメだってば。だって不公平だもん。ランニングコストが違いすぎる。公立学校が公共サービスのひとつであるというとらえが間違っていないのならば、これは絶対に解決するべき問題だよ。小さなことかもしれないけど、例えばさ、「クラリネットに挑戦したい」っていう一年生がいて、その子が保護者に相談して「お金がかかり過ぎるから無理」って言われるとしたら、これどうよ? もしこの話が、趣味の習い事についてなら、それは仕方がないかもしれない。でも、公立学校の部活動の話だぜ? 

 だからさー、やっぱりさー、僕は思うわけよ。公立学校の吹奏楽部、ぜんぶ金管バンドにしない?
 木管楽器って、僕はもちろん大好きだけど、でもやっぱり、お金かかるんだよ。ランニングコストが、金管楽器と全然違う。金管も、全然お金がかからないわけじゃないけど、木管に比べると少なくすむ。だから、ファンファーレバンドとか金管バンドにしちゃえば、部員ひとりあたりの負担額はそう変わらなくなる。
 ところで、その部活でどれくらいの人数の生徒を収容できるかという問題がある。日本のほとんどの中学校に、きっと吹奏楽部は存在して、それなりの部員数もいるだろう。たとえば今僕がお邪魔している学校だと、引退した3年生も含めると60人くらいの生徒が在籍している。これをファンファーレバンドにしましょう、っていうのはやっぱり、無理があるよね。だから、基本は金管バンドにしておいて、小規模校はファンファーレバンドっていうのがいいと僕は思うんだ。
 金管楽器には、演奏の技術継承のしやすさという利点もある。バジングやピストン操作の基礎技術はトランペット(コルネット)からチューバまで同じ。だから、「アルトホルンのパート員が3年生だけで、彼(彼女)が引退したらアルトホルンが欠けてしまう」というようなことがあったとしても、割と容易に、他の楽器の生徒が「じゃあ俺アルトやるわ」と移行できるし、もし完全にパート員がいなくなってしまったとしても、新しく入部してきた1年生にアルトを任せるとして、その1年生の指導をコルネットバリトンの先輩がすることもできる。
 木管だと、こうはいかない。楽器によって発音方式や運指がまるで違うからだ。同属楽器(例えば、フルートとピッコロ)の中では共通しているけど、フルートとクラリネットのように属が違ってしまうと、だめ。やってできないこともないかもしれないけど、簡単ではない、というのは確実に言えるだろう。

 まあね、こうは言ってみたものの、「じゃあ使わなくなった木管楽器どうするのよ?」とか、色々な問題があるのは分かっている。尖りぎみの意見のひとつ、ぐらいに思って聞いてもらえるとありがたい。
 しかし、公教育の現場における、個人負担の公平化っていうのはやっぱり必要だと思うな。そして、各家庭の経済状況には差があるのだから、それは単純に「金額を一律にしましょう」ってことで解決するものではない。そうなんだよ、金額が一律っていうのは、実は公平じゃないんだよね。特別支援の土台にある考え方を知っている人なら、分かるでしょ? だからホントに、公教育っていうのを完全に無償化するっていうのが、僕は大事だと思うよ。金管バンドにするだとかっていう話は、方便にすぎない。
 お偉い方々には、よく検討していただきたいと願う。