笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

カスタム・カエデ

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 僕は暗記が苦手だ。
 ある程度まとまったボリュームのあるテキストとか、楽譜とかを、まるっと全部、正確に覚えるということができない。いくら時間をかけてもダメで、部分的にとか、途中までとかなら覚えられるのだけど、全部を正確に、っていうのが無理。
 だから、学生の頃は暗記科目が全然ダメだった。社会科は壊滅的だったし、国語で名文の暗唱をするのもさっぱりだった。嫌いな科目だったというのもあるけど、じゃあ好きな音楽はどうだったかというと、これもかなり苦戦した記憶がある。歌曲を原語で暗唱しろ、という課題があったのだが、カーロ・ミオ・ベンとか喜びの歌をものすごく苦労して覚えたっけ。
 ただ、一度覚えると忘れないらしく、カーロ・ミオ・ベンはさすがに今全部は歌えないが、喜びの歌は今でもドイツ語で歌える。ドイツ語、全然話せないのにね・・・。

 ところで、先だって般若心経を久しぶりに読んだ。何の気なしに、どんな内容だっけ? と気楽な気持ちで開いたのだけど、読んでみると、ふっと気持ちが軽くなる感覚があって好きになった。
 色即是空空即是色。ここ、有名だよね。この部分くらいはさすがに覚えている。いつものように書き写しながら読んだのだけど、このお経、めっちゃ短いな。短いから心経なわけだけど、それにしても短い。これ、全部覚えられないかな。覚えたらカッコいいよね。ちょっと覚えてみるか。せめて、真言の部分だけでも覚えよう。どうせなら、漢字も書けた方がカッコいいよね。よし、漢字も覚えよう。

 漢字も覚えるなら、やっぱり書いて覚えるのが一番。菩提薩埵と般若波羅蜜多では、「タ」にあてる字が違うんだね。「埵」って普段使わないので、書かないと覚えられない。「埵」に限らず、仏典は常用漢字ではない漢字がたくさん出てくる。難しい。たくさん書かないと、覚えられないぞ。
 文字をたくさん手書きするのに最適なツールといえば、僕の場合、万年筆。込み入った漢字が多いので、今回は細字を使う。僕の手持ちのペンの中で一番細い万年筆は、パイロットのカスタム・カエデの細字だ。しばらく使っていなかったのだけど、久しぶりにインクを入れた。

 木軸のペンは、手触りがよいので好きだ。僕のカエデは、そんなにまだ使い込んでいないので、表面が滑らか。ちょっと滑りすぎて、書くには握りにくい。もっと使い込んで、表面がざらついてくれば、きっと握りやすくなるだろう。ペン先は、割と馴染んでいる。確かナガサワで頂いたのだったかな? 予め調整がしてあったに違いない。
 カエデのペン先は、現行のカスタムのペン先とは少し違うらしい。確か、ひと世代前の形状だと聞いたことがある。カスタム742の細字も持っているけど、カエデの方が華奢で、繊細な感じがする。早書きには適さない。書く、というよりは、したためる、という書き方に適するように思う。お経を書き写すには、この方が似合っていると僕は感じた。

 同じようなニュアンスのペンでは、プラチナのセンチュリーの細軟(SF)を持っているけど、カエデの方は軟筆ではなく、あんな風にはしならない。なので、センチュリーでは行書的に流れを感じながら書きたくなるのに対し、カエデだと、ストロークを確かめながらカリカリ書きたい気分になる。ペンによって、書きたい字が変わるというのは面白い。万年筆を使う楽しみのひとつだろう。

 ゆっくりと書くと、自分の悪筆が気になる。うーん、こりゃあちょっと、大人として恥ずかしいレベルかも。今まで字をきれいに書きたいと願ったことはほとんどなかったけど、ちょっと練習してもいいかもね。以前、お遊びで美文字のワークブックを暇つぶしにしていた頃があったのだけど、やっぱりあれじゃあ上手くはならない。本気なら、手練れについて教わらないと。どうしようかな、本気で習うことを考えてみようかな。