笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

リガチャについて思うこと。

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 中学校のクラリネットの生徒さんたち、最初は学校の楽器を使っているけれど、学年があがるにつれて自前の楽器を買ってもらう人もでてくる。楽器本体は買ってもらえなくても、マウスピースやリガチャーだけ買ってもらう人っていうのも多くて、なんか眩しいなと思ったら、新調したリガチャーが口元で光り輝いていたなんてことは、ちょいちょいある。
 中学生に人気のリガチャー、第一位は、ウッドストーンできまりだ。
 いやもうホント、みんなウッドストーンですね。ダントツ。ピンクゴールドメッキが特に多い。次点でゴールドメッキ。一昔前はバンドレンオプティマム(リガチャの話ね)が多かった気がするけど、近頃全然見なくなったなあ。
 いいリガチャだよね。本当に音がよく飛ぶ。それに、倍音の乗り方がきれいだし、他のリガチャとの音色の違いがはっきりするのも人気の秘密かもしれない。
 中学生だけじゃなくて、大人にも人気があり、僕のオケでも使っている人がいる。その人はサテンゴールドだったかな? しょっちゅう使っているわけじゃなくて、音ヌケをよくしたい時だけ使うらしい。彼女が言うには、「音はよく飛ぶが、音色を変える自由度が低い」ということなのだけど、ああそれ、分かるわ。僕もそう思う。
 ちなみに、僕も昔使っていた。テナーサックスのリガチャはもう手元にないけれど、アルト用にはまだウッドストーンのコパー製のものを持っている。ちなみに、テナーで使っているリガチャはGF。さっき言及したオケの人(もちろんクラ吹きです)も、ウッドストーンじゃない時はGF。別にそろえたわけじゃないけど。GFは、ファブリック製のリガチャにしては音のとびがよく、音色にクセがない。音色をガッチリ決められてしまうウッドストーンとは真逆の性格と言えるだろう。
 楽器って、ある性能が高いものを選ぶと、何か別の性能が犠牲になる、っていうのが普通であることが多い。だからプレイヤーは、どっちがすぐれていてどっちが劣っているっていうことではなくて、演奏環境に応じてどっちを選ぶかっていうことが大事。
 僕はウッドストーンを今は全然使わないけど、それはウッドストーンがだめだってことじゃなくて、僕の用途にあわないってだけのこと。いいリガチャだってことは知ってるよ、使ってたからね。でもね、うん、僕はウッドストーンを今は使わない。

 実を言うと、ウッドストーンに限らず、金属製のリガチャはもう使わないと決めている。理由はふたつあって、ひとつはサックスは音がでかいのでリガチャでボリュームアップする必要を感じないから、そしてもうひとつは、落とすと曲がって使えなくなるから。
 カナモノのリガチャ、落とすと曲がっちゃうんだなー。落とすなよ、って話ではあるんだけど、サックスは時々しか吹かないので扱いの慣れが足りないのか、僕はちょいちょい落としてしまう。で、曲がると、マウスピースへのフィット感が格段に悪くなる。特にウッドストーンは神経質みたいで、落として曲げると本当にはまらなくなる(だから落とすなよって)。僕はテナー用のリガチャを、ふたつダメにした。
 その点、革や繊維のリガチャはいい。落としてもほとんどダメージがない。僕のGFは何度も落下しているが、何の問題もなく使い続けられている。なので、僕みたいなぶきっちょさんには、絶対にファブリック製のリガチャがあっている。

 しかし、リガチャという部品は面白い。こんなに小さな、何でもない部品なのに、ちょっと形や材質が変わるだけで、音色も変化する。そんなのプラシーボじゃん? なんて思ってた頃もあったけど、人の演奏を聴いて「リガチャを変えると音色が変わる」という感覚を得てからは、ちゃんと選ぶようになった。
 一般に選び方としては、材質・形状・重量、というみっつのパラメータの組み合わせで考えることになるだろう。この三つのパラメータは互いに影響し合っているので、単純ではないが、僕はまず材質と重量を「金属以外、軽量」と固定している。金属を選ばない理由はさっき書いた通りで、軽いものを選ぶのは、吹奏感を重くしたくないから。重いリガチャは、吹くのに体力がいると僕は感じている。サックスは音がでかい楽器だし、めちゃくちゃに音の貫通力を高める必要はないんじゃないかと考えているので、体力のコスパを重視し、僕の場合は楽なリガチャがいい。
 で、形状だけど、おおまかに分けて二つの傾向がある。ひとつはリードをしっかり固定するタイプ、もうひとつはできるだけリードへの接触を減らすタイプ。
 大型のリガチャはだいたい、前者のしっかり固定タイプじゃないかな。リガチャの縦幅が広くなるにつれ、固定度があがり、その分マウスピースがしっかり振動するようになる傾向があるように感じる。幅広のファブリック製リガチャも同様。リガチャの材質によっては振動を吸収する方向に働く場合もあるけど、このタイプはリードの鳴りがダイレクトに楽器に伝わる感じがあって僕は好きだ。
 逆に、小型のリガチャはリードの振動を妨げないタイプ。一本締めのセルマーとか、ヤナギサワに昔あった魔法のリガちゃんとか。金属製意外では、樹脂や木を輪っかに整形したタイプのリガチャも、リードの振る舞いを制限しない発想だろうな。こっちは、リードのサウンドが楽器本体よりも中の空気柱へ働きかけている印象。イメージだけど、響きが軽いかわりに、カラフルなサウンドになるように思う。
 後者のリガチャ、嫌いじゃないんだけど、僕はリガチャの扱いに関してはとにかく不器用で、たいてい小さいボディだから、時々ねじ切ってしまったり、閉めすぎてリードに穴をあけてしまったりする。だから、僕には不向き。輪っかのタイプは使ったことがない。試してみる前に、GFに出会って満足してしまったせいだ。
 GFね、いいリガチャだよ、僕にはあってる。壊れにくいってのが、とにかくいい。素直でクセのない音色も気に入っている。時々、違うリガチャを試す機会があると浮気しそうになるけど、結局、「GFでいいや」って元に戻る。一本締めだっていうのも、不精者の僕にはあっている。二本締め・・・ちょっとめんどくさい。手前と向こうのネジで締め具合を変えて吹奏感を調節するなんて小技も僕は使わ(え)ないし。
 GF、十年使って特に痛みもないしね。切れるかなくすかしない限り、永久に使い続けるんじゃないかな。そんな気がする。

 リガチャも近頃は随分高くなった。一万円以上するものが普通になってきて、気軽に買い換えたりお試ししたりできない。リガチャはアクセサリなのだから、それこそ装飾具感覚で選べればいいのに、そういう訳にいかないご時世になってしまった。