笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

サクセロ!

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 今年のうちに、ウインドシンセを新調しようと考えている。今使っているのはEWIだが、次はローランドのエアロフォンを考えている。
 以前、ヤマハのデジタルサックスYDS-150とエアロフォンのAE-05で迷っているようなことを書いたけど、現在、僕の気持ちとしてはエアロフォンのAE-20でほぼ決まっている。YDS-150を選択肢から外したのは、トランスポーズがアプリを介さないとできないことを知ったからだ。僕の機材に対する要求としては、スタンドアローンで使って、移調が簡単にできることがマスト。いちいちスマホとつないで、移調の度にアプリを起動して・・・では面倒すぎる。
 AE-05はその移調の要求を満たした上で、軽量というメリットがある。しかし、YDS-150と同程度の重量があるがやっぱりAE-20がいいなあと思うのは、操作性のよさのせいだ。先だって、三宮を通った時に島村楽器に寄って、エアロフォンを手に取ってみたのだけど、AE-05、20、30と一通り触ってみて、AE-05のパームキィがえらく使いにくいと感じたのである。反対に、AE-20、30は生サックスとほぼ変わりない操作感。特に30はいい。さすがプロ仕様を謳うだけのことはある。
 でも、さすがにAE-30は、僕の用途にはオーバースペックだ。とすると、間をとってAE-20、っていうのが僕の選択。緊急の出費に見舞われなければ、夏頃には手に入れられるかな、なんて考えている。

 エアロフォンの上位機種はZenCoreなるエンジンを積んでいるらしい。シンセサイザーのことはよく分からないが、ネットにあがっているパフォーマンスの動画を見ると、めっちゃいい音。ローランド公式と思われる動画では、MAE.SUNという女性の奏者がプレイしているのだけど、彼女の演奏、マジでカッコいいな。
 このMAE.SUNという方が気になって、検索してみると、サックスを演奏している動画がひっかかる。おお、ソプラノサックスを吹くんだね。さすが、生サックスもいい音だ。エフェクターを通すプレイスタイル、とてもシンセっぽい。こういうやり方もあるのか。面白いぞ。
 いいなあ、ソプラノサックス。・・・いや、待て、これソプラノじゃないぞ。ベルの向きがおかしい。これはもしや・・・サクセロ?

 おおお、現在ではほとんどお目にかかる機会のなくなったサクセロを使うプレイヤーがいるとは。サクセロが製造されていたのはもう100年ほども前のことになるだろう。この個体がいつの製造かは分からないが、相当古いはずだ。古い楽器の愛好家としては、無視できない。これは、惚れてまうやろ。
 サックスという楽器が発明されたのが、およそ180年前だろうか。サックスという楽器は、その時から現在までの間にいくつかの亜種が製造されたようだ。コンサートサックスというC管とF管のシリーズや、グラフトンの樹脂サックス、Low-Bのキィガードのところのピックアップをくっつけたエレキ・サックスみたいなのもあったっけ。そして、サクセロもその亜種のひとつ。現在はトロンボーンでよく知られるメーカー、キングが作っていたようだ。

 エフェクターを通さないクリーントーンの生音は、ストレートとカーヴドの中間ぐらいの音色。カーヴドほど甘くない、でもストレートほどストンと抜けすぎない、ちょうどいい感じ。面白い音するなあ。かなりハードに演奏しているけど、キィの追従性は悪くなさそうに見える。そして、エフェクターをかけるとまるでシンセサイザーだ。この楽器を作った人は、まさか100年後にこんな使われ方をするとは思っていなかっただろう。

 表現力・・・というものが、具体的には何のことを指すのか、というのは難しい話になるが、管楽器の表現力ということを考えた時に、ダイナミクスレンジの広さや音程の自由度に加えて、音色の豊かさを上げられると思う。で、その、音色が豊かである、とはどういうことか、というのも幅が広くて一言では言えないが、ひとつにはバリエーションに飛んでいること、もうひとつには倍音を豊富に含んでいることと、その両方のコントロールがきくことが大事なんじゃないかな。
 倍音の豊かさと言う点においては、シンセサイザーは生楽器にまだ敵わないと僕は思っている。不可聴音域とされる振動数の倍音についての意見も人によって様々だと知っているけど、僕はこの不可聴音域の倍音がある場合とない場合では、やっぱりある方が心地よいと感じる気がする。CDかレコードかでいえば、レコード派ってことだ。
 ただし、音色のバリエーションについては、間違いなくシンセだな。当たり前だけど。でも、ダイナミクスに応じてシームレスに音色が変化していく生楽器の面白さをシンセで表現するのは、まだまだ難しいだろうな、とも感じる。
 ローランド公式で紹介されているようなプレーヤーはその辺りも、エアロフォンを使って上手に表現してるけど、あれ、どうやってるんだろう? 僕は、EWI4000SWを使って、あれと同じ事は、全然できない。音色を簡単に、リアルタイムに匙加減するインターフェースがついているんだろうか。それともブレスコントロールの強さに応じて自動的に音色を変化させるシステムが搭載されているのだろうか。わからん。

 MAE.SUNの演奏するサクセロとエアロフォン、どちらも豊かな音色だ。でも、音色だけのことを言うなら、そうだなー、僕はサクセロに軍配をあげるかなー。YouTubeとノーマル仕様のイヤホンを通して聞く貧弱な音ではあるけど、それでも倍音の豊かさという意味においては、サクセロ、つまり生楽器の方がいい。不可聴音域の倍音をシンセでプラスしようとすると、平行して鳴らすトラック数がとんでもないことになって、しかもそのためのスペックアップにかかるコストに比して得られる効果の実感が少ない(つまりコスパが悪い)のかもしれないけど、シンセサイザーが生楽器に追いつて、追い越していくためには、これが必要なんじゃないかな。
 ああでも、サクセロいいな。MAE.SUN来日してくれないかなあ。ライブを生で聴いてみたいものだ。