笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

ミント神戸


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 残暑見舞いをもらった。
 もらった時点ですでに、残暑見舞いでさえ時期はずれになりつつあった。今から残暑見舞いを返したのでは、さすがに笑われるだろう。しかし、返事を返さないのはなんだか申し訳なくて、絵はがきを送ることにした。
 僕はいつも、こういう時のためにはがきの類をストックしている。しかしここのところ、コロナのこともあってこういうもののストックの補充をしていなかったために、手元の絵はがきは払底してしまっている。緊急事態宣言下ではあるが、仕事帰りに三宮で買い物することにした。

 最初にセンター街のナガサワ文具センターに寄った。ナガサワは老舗の文具店だ。僕はよく万年筆のインクを買いにいく。絵はがきも少しおいている。老舗らしく、シックなラインナップ。うーん、ちょっとシックすぎるなあ。僕に残暑見舞いを送ってくれたのは、小学生の男の子なのだ。送り手の僕の年齢にはあっているけど、もらい手の彼はきっと気に入らないだろう。もうちょっとポップなもの、でも僕が送って恥ずかしくないものがほしい。
 以前であれば、トアウェストの絵はがきをたくさん扱っているお店を頼ったのに、残念ながらそこは少し前に看板をおろしてしまった。センター街を歩きながら腕組みししていると、ミントにステーショナリーを扱うお店があったことを思い出した。おしゃれな文具を扱っているお店で、確か絵はがきもあったはず。あそこなら、きっといい絵はがきに出会えるんじゃないかな。僕は三宮の街を横切って、ミント神戸を目指した。

 震災でなくなった新聞会館のあとに建ったのが、ミント神戸だ。正式名称は今でも新聞会館らしいが、もうそんな風に呼ぶ人はいない。ミント神戸の呼称はすっかり定着している。
 僕が最初にその名前を聞いたのは、横浜で暮らしていた頃だった。神戸に帰省して友だちと会うときにメールで、「ミントで待ち合わせ」と言われてどこのことだか分からなかった。「ほらあの、緑のビル」と言われても分からなかった。そして、「新聞会館だったところに新しいビルが建ってるから、行けばわかる」と呆れられて、ああそうか新聞会館を再建したのだなとようやく理解した。
 僕は用事がなければ帰省しないし、用事だけすませたらさっさと横浜に戻ってしまうのが常だったので、その友だちに教えてもらうまでミント神戸なんて建物ができたことを知らなかった。言われたとおりにかつて新聞会館が建っていたところへ向かってみると、どでかいグリーンのビルが見え、「ああなるほど、だからミントなのか」と即座に愛称の由来を理解したのだった。
 僕が子どもの頃、新聞会館といえば映画を見に来るところであった。その歴史を引き継いで、ミントの上階は映画館になっている。中間部分はレストラン街とファッションブランドのテナントビル。新聞会館を名乗るからには神戸新聞の社屋としての機能をもっているはずだが、そのフロアがどこにあるのかは全然わからない。まあ、用事はないから別にいいけど。最後にここで映画を観たのはたぶん、コロナ騒ぎがおこる前。「天気の子」を観にきたんだっけ・・・ちょっと自信がない。多分間違いないと思うのだけど。

/* 以下、ネタバレ注意 */







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 「天気の子」では、東京に気象災害が起こる。そして、広島の土石流災害が起こったのが、「天気の子」の公開後だった。封切りから半年ぐらい経っていたはずだがあのタイミングではまだ、「天気の子」を上映している映画館があったんじゃないだろうか。広島の災害の報道映像を見ながら、僕は「天気の子」を思い出した。雨はこわい。「天気の子」は面白いアニメーション作品だけど、「君の名は。」ほど振り返られなかったのは、広島のことがあったからかもしれない。
 近頃は雨の災害が多いと感じるのは、僕だけじゃないだろう。広島の山津波はもちろんのこと、九州の球磨川氾濫も記憶にあたらしいし、首都圏で多摩川が氾濫して高層マンションが被害にあったのもついこの間のことだ。この頃の雨は、台風でもないのに、降るとなったら尋常ではない降り方をする。そしてこの8月の豪雨。熱海の土石流の映像には驚いたし、いよいよ東京も沈むんじゃないかと、半ば本気で思った。
 もちろん、東京はまだ沈んでいない。その代わりに、何度目だかすぐには思い出せない緊急自体宣言が今、発令されている。もちろん兵庫にも。雨でコロナウィルスが洗い流されればいいのになんて思いながら降り止まない雨にため息ついていたけど、甘い期待で終わってしまった。
 まるで地球が風邪をひいているようだ。そんな風に僕は思う。コロナだって、今は人間しか罹らないようだけど、これが野生動物にまで蔓延するようになったら、人間への流行にとどまっている今よりずっと大変なことになるだろう。
 だからやっぱりここはひとつ、人間は発憤して、コロナの流行が人間だけで済むように押さえ込むべきだ。雨だとか地震だとか、対処しなきゃいけない災害は多くて、そのひとつひとつがなかなか深刻なのだけど、ちゃんとコロナ対策しよう。

 数日前、神戸でも夏休みの延長が決まった。僕に残暑見舞いをくれた彼も休みが伸びた。多分、あまり喜んではいないだろう。どこにも行けない、雨とコロナに閉じ込められた夏休みだ。ミント神戸で手頃な絵はがきが手に入ったので、感謝と同情、そして励ましの言葉を添えて投函した。
 どうか夏休みが早く終わりますように。


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