笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

万年筆のインク


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 書き仕事で、赤色をよく使うようになった。
 職場で仕事をする時には、ボールペンやサインペンを使っている。職場だけでは仕事がおわらず、持ち帰って作業することがあるのだが、同じペンだと気分がかわらないので、家では万年筆で仕事することにした。これまで万年筆に赤インクはあまり入れなかったので、何年も前に買った赤が全然減らなかった。しかし、転職して赤をよく使うようになったとたん、半日のうちに二回もインクを吸いなおすようになった。そこで仕事帰りに三宮のナガサワ文具に寄り、パイロットの色彩雫“紅葉”を一本買い求めた。
 インクを買うのは久しぶりだ。少し値上がりしている。ついでにコンバータも新調したが、こちらも高くなったような・・・。

 万年筆ユーザには、「インク沼」なる沼に沈む人が多くいるらしい。この沼に沈むと、使い切れないインクをどんどんためてしまうようになるのだそうだ。いろんな色をとっかえひっかえ使うのは楽しいので、気持ちはわからないでもない。僕はボトルをデスクに五本以上置かないようにしている。黒系、青系、赤系がぞれぞれ一本以上あれば、日常で困ることはない。だから僕はインク沼住民ではないと自分では思っている。しかし、それなりに色々な種類のインクをグルメに楽しんではきた。

 青系は、今ではパイロットのブルーブラックに決めている。ただ、ここに落ち着くまでにはあれこれ試した。セーラーのブルーブラックとどちらにするか最後まで迷ったけど、ブルーブラックは主にパイロットのペンで使うことに気づいて、パイロットを残した。
 海外製のものいくつか試したが、パーカーのクインクを使った時に痛い目にあって、使うのをやめた。クインクは乾燥が早く、ペンに吸わせたその日はいいのだけど、二三日たつとインクフローがしぶくなる。本当は、乾き始める前に使い切れば問題ないのだろう。でも僕の場合、長くて一ヶ月ぐらいかかってペンの中身を使い切るので、書き出しがかすれたり書いている途中に欠けなくなったりして困ることが多かった。国産インクにはそういうことがない。特にパイロットは、少しぐらい放置していてもフローが鈍らない。僕にはパイロットがあっているようだ。
 クインクはどうでセーラーはああでパイロットだとこうだ、なんてインクを選ぶのは楽しかった。好きなことで悩むのは心が躍る。
 インクにこだわる人は、古典インクじゃなきゃ面白くないとか、顔料インクが最強だとかこだわるようだ。でも僕は染料インクでいい。長期保存できなければ困るようなことを書く仕事ではない。耐水性も気にしない。廉価で使い勝手のいい染料インクを僕は気に入っている。安くて高性能。最高じゃないか。しかも安ければ、あれこれ試しやすい。僕は実用品として万年筆を使っているけれど、インクを選ぶ楽しみも知っている。

 しかし、価格だけのことをいえば、染料インクももう安いとはいえないようだ。セーラーの四季彩なんて倍近い値段になった。困る。
 今のところ、レギュラーのラインナップのインクはあまり値上がりしていないように感じる。でも、値上げも時間の問題だろうな。そう考えると暗い気持ちになる。インク一本、気軽に買えない時代になってしまったらどうしよう。インクを選ぶのは僕の楽しみのひとつなのに。
 紙に万年筆で字を書くことなんて、きっともう時代遅れなんだろう。時代遅れになったものが廃れていくのは仕方ないし、時代遅れにしがみつくのが高コストな行為だということも理解している。でも、もうしばらくの間だけ、僕の気軽で小さな楽しみがなくならないでいてほしいな。