笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

断酒


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 半月ほど断酒している。
 いつもは一日一合の晩酌を楽しんでいるのだけど、先月末にひどい頭痛がきて、その夜はアルコールを抜いた。僕は季節性の頭痛持ちで、季節の変わり目にはかならず頭が痛む日がある。いつもなら一日我慢すれば治るのだが、今回の頭痛はちょっと長くて、三日ぐらい調子がもどらなかった。酒も三日やめた。
 頭痛がおさまってまた飲もうかと酒瓶に延ばしかけた手を僕は止めた。去年の健康診断で肝臓の数値に△がついたのを思い出したのだ。肝臓の数値は○のこともあれば△のこともある、という年が数年続いている。目の前にある酒瓶は、まだ封を切っていない。栓を抜いたらまた飲み続けるだろう。
 ちょっとやめてみようかな、という気になった。今すぐ酒を辞めなければならないほど肝臓が悪いわけじゃないが、少し労ってやった方がいいのは確かだ。若い頃、僕はこの腹の中のレバーにかなり負荷をかけていたから、そのツケがきているのかも知れない。何せ、ストレートのウイスキーをビールのチェイサーで流し込んでいたから。
 酒をやめることに抵抗はない。コーヒーをやめろと言われたらちょっと辛いが、酒にはさほど執着がないのだ。頭痛はとっくに治ったけど、春風の吹いた日から半月ほど酒瓶を傾けていない。沈黙の臓器が喜んでいる声は聞こえないけど、体には変化が起こった。

 酒をやめて一週間ぐらいしたある日、妻が「痩せたよね?」と首をかしげた。そう、僕は痩せた。体重計には乗っていないので具体的にどれくらい減量したかは分からないけど、多分、2、3キロ落ちた。腹囲は明らかに縮んでいる。ベルトの穴がひとつ奥になった。
 酒を飲まなくなったこと以外に、生活習慣の変化は一切ない。一日にたった一合の晩酌をやめるだけでこんなに痩せるのかと驚いた。あのグラス一杯の甘露が、一体どれくらいのカロリーを含んでいるのだろう。おそろしい。
 妻に指摘されてからさらに一週間、飲まずに過ごした。腹回りの贅肉は見た目にはっきり分かるほど落ちている。横っ腹はまだ少したるんでいるが、へそ回りは確実に平たくなった。散歩をすると、体の取り回しの軽さに驚く。

 実は、断酒をするのはこれが初めてではない。数年前にも一度、二ヶ月ぐらい酒をやめてみたことがある。そのときも、特別なきっかけもなく、「ちょっとやめてみようか」とプチ断酒のつもりで初めた。そのときもやっぱり痩せた。体重がみるみる落ちるのが面白くて、一週間ぐらいの断酒のつもりが、気がつけば二ヶ月もやめていた。
 そのときは、5キロぐらい体重が落ちて、そこで下落が止まった。そのまま酒をやめていてもよかったのだけど、また飲み始めたのには理由がある。体重が減ったこと自体はいいのだが、そのとき、同時にえらく疲れやすくなってしまったのだ。スタミナが落ちたと言えばいいのだろうか。仕事や生活をしていて、以前ならもうひとふんばりできたところで、頑張りがきかない。これがけっこう困るのだ。酒をやめて体重が減ったこと以外に変化はなかったから、原因ははっきりしている。そういうわけでまた晩酌を始めた。飲み始めるとするすると体重は元にもどった。体調も元通り。

 バランスがいいのは今ぐらい、つまり3キロ減ぐらいの体重なんだと思う。5キロ落とすと、またあのときみたいにスタミナ不足になるだろう。今ぐらいの体重をキープできるいい方法はなにかないかな。そう考えて、普段より少し食事の量を増やしたり間食をしたりしてみているのだけど、どうも体重は落ち続けているように感じる。難しいものだ。
 でもまあ、肝臓をリフレッシュしなければならないタイミングでもあるし、もう少し酒はやめたままでいよう。痩せすぎたら、また飲めばいい。
 痩せてみて、体の取り回しが軽いこと以外に、もうひとつ、いいことがある。若い頃に買ったスリムめのスーツが着られるようになった。痩せる前にも着られないことはなかったのだけど、ウェストが無理なくはいるようになったのだ。息苦しくない。うん、やっぱり今ぐらいの体格がちょうどいいな。

 万事、過ぎたるは猶及ばざるが如し。普段飲み過ぎているように感じたことはないが、いいいい機会だ、少し調節してみよう。