笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

すれちがい・こじれ

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秋の夕ぐれには
きょう憎しみに変わった私の愛
にくいあんちきしょうの
うつむいた横顔

 

川崎洋詩集」 川崎洋 ハルキ文庫

 

 時々お邪魔している中学校の生徒さんはとてもしっかりしている。僕が関わっているのは吹奏楽部なのだけど、ほとんどの部員が毎日きちんと来ているし、休むときもきちんと連絡がある。練習の仕方らやら演奏のコツなんかを教えていると、特に指示したわけでもないのに、僕のアドバイスを熱心にメモする部員もいる。えらいなあと、いつも感心する。そういうのって、日々ご指導されている先生方の努力のたまものでもあるし、学びに対して熱心な生徒たちの意欲の証でもあると思う。

 それでも、人間の集まるところだから、トラブルがないというわけでもない。
 ある日の練習の後、ひとりの一年生が顧問の先生の前で涙を流していた。先生は困った顔をして、彼女を慰めていた。何だろうと思って、後で先生に事情を訊いてみると、人間関係のことで悩んでいるらしかった。
 一年生の言うことには、二年生の先輩の態度がどうも自分に対して冷たいらしい。顧問の先生は、苦笑いしながら僕にそう言い、それを訊いた僕も、ああなるほどねと苦笑いした。その二年生のことを、もちろん僕は知っている。表情豊かで明るい、というタイプではない。悪意があって言うのではないので赦してほしいのだけど、どちらかと言えば、不器用。態度や言葉に裏表がないのがいいところ。でもその裏表のなさが、かえって悪くとられがちな、周囲に恵まれないと世に出て苦労する、そういう生徒さんだ。
 この学校の二年生は、部員が少ない。反対に、一年生はとても多い。彼女のパートには一年生が四人もいて、それに対して二年生はたった一人だ。大変だろうと思う。手も気もまわらないこともあるだろう。そのせいで苛々することもあるだろう。一年生の不満もわかるが、大人の僕たちから見れば彼女はとてもよくやっていると思う。先だって、三年生が引退した後、明らかに彼女の顔つきは変わった。自分が何とかしなければならない、という覚悟を決めた顔になった。彼女は彼女なりのベストを尽くしている。

 誠意だとかまごころだとかっていうものを、人に伝えるのはとても難しい。感じ取ることも難しい。とうに諦めている大人も多いことだろう。でも、だからこそ、若い彼らには伝え合う努力をしてほしいと願う。きっとできるさ。