笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

立ち食いそば

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 少し前に、用事があって三宮のヤマハに来た。その時に、立ち食いそば屋さんの前を通り、いい香りがしたので「そば食べたいかも」と思い、その時はお腹が空いていなかったのでスルーしたのだけど、ダシの香りが鼻の奥から抜けず、どうしても忘れられなくなって後日食べに行った。
 このヤマハの少し南にある立ち食いそば屋さん、随分昔からある。予備校生だった頃によく通ったのを覚えているので、少なくとも四半世紀以上前からあるはず。
 三宮のヤマハは、以前は元町にあったヤマハが移転してきたのだけど、三宮のヤマハの建物はヤマハが入居する前、予備校だった。僕が若かった頃は代ゼミが入っていて、その後、どこか大手のサテライト教室になったんじゃなかったかな。で、代ゼミの夏期講習なんかでこっちに来ると、ダシの香りに誘われてのれんをくぐり、そばをすすったものだ。
 この手のお店、都会であればどこにだってあるけれど、どれも同じように見えるのに、お店によって少しずつ違うのが面白い。例えば天ぷらのラインナップとかかき揚げの具とか。ライス系のメニューとして用意してあるのが、おにぎりかいなりかカレーライスかまぜごはんか、とか。
 このヤマハの南にある立ち食いそば屋さん(実は、何という名前のお店なのかよく知らない。ごめんなさい)は、わかめのトッピングがある。それがおいしい。所詮立ち食いそばだから軟弱なわかめが申し訳程度に乗るだけだろうと侮っていると、驚くことになる。トッピングのわかめ、結構ちゃんとわかめなのだ。なので、ここに寄ると僕はたいてい、わかめをそばにのせてもらう。

 ここでわかめ入りのそばを食べていると、予備校生だった頃を思い出す。一流大学への進学は春のうちにあきらめたので、割と楽しい予備校生活だった。予備校(代ゼミじゃなくて駿台だった)には優待生扱いで通っていたので、担任には暗い顔をされたけど、行けるはずもない大学のために努力を重ねる無駄はせずにすんだので、あれで良かったと思っている。分相応って大事だ。高望みは人を不幸にする。分不相応な高校生活で苦労した僕が言うのだから間違いない。高校進学のことで高望みをしたのは僕自身じゃなかったけど、レベルの会わない学校に行くものではない。それが実力に対して、上でも、下でも。
 で、その結果ほどほどの公立大学に進学し、ほどほどの仕事を得て、ほどほどの生活を送ってきた。不満はあるが、嘆くほどではない。多分、それなりに幸せな方だろう。病気は予想外だったけど、命取りになるものでもなかったし、少しずつよくなってきている。

 立ち食いそばのスタミナそばにわかめをトッピングして、それを喜んで食べられることは、有り難いことだ。食べられないほど貧しくはなく、喜べないほど贅沢に慣れてもいない。四十数年、特別に幸せな人生を送ってきたつもりもなかったけど、そう悪くない人生だったのかもしれないな。
 立ち食いそば、10年後も20年後もおいしく頂けるだろうか。頂けるような生活を送っていたい。