笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

コロナウィルス⑥

 

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 人混みをかきわけながら上を見上げると、通天閣の赤い光が目に射し込むように痛かった。目が慣れると、「日立コンピュータ」が、今日もいやに景気の良い明るさで、そこにあった。・・・

 

通天閣」 西加奈子 ちくま文庫

 

 僕は、通天閣を見たことがない。
 神戸に住んでいると、何か特別なことでもない限り、大阪に出かけなければ済まないような用事は基本、ない。大阪の観光にも興味はない。よって、通天閣はおろか、戎橋もグリコの看板も見たことはない。友人が入院をして、その見舞いに行ったときに大阪城の近くを通ったが、曲輪にはあがらなかった。一昨年に万博記念公園に行って太陽の塔を見たけれど、それは大学時代のふるい仲間に会いに行ったついでに過ぎない。
 でも、このコロナの影響で、あのずぼらやのフグの看板がなくなったらしい。そう知ると、やっぱり見に行っておけば良かったかなあと思う。あのフグの看板、いかにも大阪らしくて、嫌いじゃなかった。もちろん見たわけじゃないけど。そうなると、通天閣大阪城もそのうちなくなってしまうかもしれないぞ。

 コロナの第三波がきている。大阪市は往来の自粛を要請している。通天閣が真っ赤に光っているらしい。往来の自粛を要請しているのに、わざわざ人寄せみたいなことせんでもええのに。そこがいかにも大阪らしい、なんて思っていたら、神戸は医療従事者への感謝を込めて、ポートタワーを青くライトアップしてるそうだ。あはは。なんだそれ。どっこいどっこいやないかい。
 でもまあ、せっかくだから、青いポートタワーを見に行ってみた。

 家族で買い物を済ませに車ででかけ、その後にメリケンパークへとハンドルを切り返した。車の中から見上げたポートタワーは・・・なんだ赤いじゃないか、と思ったらその瞬間、タワーは暗転し、その後青く輝いた。
 ブルーのライトアップは、医療従事者への感謝の気持ちの表現らしい。見慣れない、少し紫がかったブルーのポートタワーを見上げながら、僕は自分の所属しているアマオケの若いホルン奏者のことを思い出した。彼女は先だって学業を修め終え、今は医療の現場で働いているのだけど、感染リスクを少しでも減らすために、演奏会への参加を諦めた。経験のない人には中々理解しにくいかもしれないが、アマチュアといえども一度のると決めた演奏会をおりるのは、かなり覚悟がいる。医療の現場の厳しさを身近に感じた出来事だった。
 僕も、医療の現場で頑張っている人たちには心から感謝しているし、エールを送りたいと思う。
 でも・・・でも、ライトアップを見るために集まっているに違いないメリケンパークの人混みを見ると、これが本当に応援になっているのだろうかと疑いたくなる。スターバックスは店の外まで行列だ。感謝の気持ちを表したいのはわかるけど、もうちょっと違うタイミングや、違う方法があるんじゃないかな。

 駐車場に車を止め、人混みに近寄らないように気をつけつつ、少しだけメリケンパークを歩いた。ポートタワーのライトアップに加え、虹色のレーザー光線が夜空をまっすぐに切り裂いている。きれいだ、きれいだよ、きれいだけどね、でもね・・・。忙しく働くホルン奏者の仲間の顔が脳裏をよぎる。彼女の仕事上の厄介事をふやさぬよう、僕たちはさっさと車に戻ることにした。
 こういうイベントが、何の躊躇もなく楽しめる日が早くくるといいな。そのときは、海でも山でも真っ青に染めて、盛大にお祝いすればいい。

 

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