笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

音の強さと、ピッチコントロール。

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 遊び相手になってくれている吹奏楽部の中学生(チューバ奏者)から、「強く吹くとピッチが上がって、弱く吹くとピッチが下がっちゃうんですけど、どうすればいいでしょう?」とアドバイスを求められた。キミ、そこに意識がいくとは、中々やるじゃないか。そうなんだよ、管楽器というのは何も考えずに吹くと、フォルテではピッチが上がるし、ピアノでは下がるものなんだよ。

 しかし、これをコントロールするのは、けっこう難しい。一言では言えないし、一朝一夕に解決できる問題でもないのだ。
 でもね、この文言が多少の誤謬を含んでいることを承知の上で、あえて一言で言ってみることにしよう。「ピッチを安定させるには、楽器に吹き込まれる息のスピードをコントロールすればよい」と僕は思っている。

 例えば、曲の中でff(フォルティシモ)で演奏する部分があるとしよう。奏者としては当然、力強い音色、大きな音量を得るために、たくさんの息を楽器に吹き込む操作をするはずだ。吹き込む息の量が増えれば、アパチュアのサイズが固定されている場合、アパチュアから楽器に向かって放出される息の速度は上がる。ホースで水まきをする時に、蛇口を開放すれば大量の水が出て、遠くの木々に水を撒いてあげられるのと同じ原理だ。
 逆に、pp(ピアニシモ)が譜面に書いてあるのを見つければ奏者は、やわらかい音色、小さな音量を得るために、楽器に入力する息の量を絞るだろう。これは、水まきに例えるならばffの場合と反対で、蛇口から出る水の量を絞る操作となり、足もとの茂みにしか水は届かないことになる。

 この、ホースの先から出た水がどのくらい遠くへ飛ぶかというのは、畢竟、その水がどれくらいの流速(スピード)で飛び出してくるかということなのだけど、この説明は、金管楽器倍音のコントロールを説明するのによく使われる。しかし今回は倍音ではなく、同じ振動モードの中で、ピッチのゆらぎを説明するのに使いたい。
 一般に倍音のコントロールの説明では、水が遠くへ飛ぶ、というのは、振動モードが上の倍音に移動するということであり、即ち、高い音が出る、ということになるわけだ。逆に言うと、上の倍音に移動するためには、水の流速を上昇させ、振動モードが変わるボーダーラインを越えるところまで水を飛ばさなくてはいけない。
 しかし、今回は振動モードを移動したいのではなく、むしろ固定したいのであり、また、同じ振動モードの中でのピッチのの上振れ(あるいは下振れ)、ピッチの上昇(ぶら下がり)を抑制したいのである。しかも、息の流量が変化する中で、いかに水の飛距離を一定に保つか、ということが命題になる。つまり、水まきのシーンで例えるならば、水をやるターゲットとなる植物の位置が決まっていて、そこへとどける水の量を変化させるけれども、ターゲット以外の植物には水がかからないようにするようなことを考えるわけだ。

 ということは、水量を変えつつ同じターゲットに届くようにするためには、水量に応じてホース先端のつぶし具合を変化させる必要がある。すなわち、水量を増やす時には、流速を抑制するためにホース先端を開く操作、水量を減らす時には、流速を上昇させるためにホース先端を潰す操作を行わなければならない。
 このホース先端というのが、奏者の場合はアパチュアということになる。従って、フォルテを奏する時にはアパチュアを大きくとり、ピアノを奏する時には小さくとる。

 しかし、経験を積んだ奏者なら分かるとおり、アパチュアの操作は音色の善し悪しに直結することをご存知だろう。金管楽器であれば、アパチュアを絞ることによってリップリードが硬くなってしまうし、開けすぎると散った音色や音程感のない音色になってしまう。最悪、倍音が変わってしまうことだってあるだろう。そして、木管楽器であるフルートでも、極端なアパチュアの開閉は悪影響しかもたらさない。コントロール幅にはリミットがある。
 そこで、アパチュアでは補いきれないピッチ変動を、喉や口腔のコントロールで行う必要がでてくる。
 奏者の喉や口腔は、エンジンカーにおけるマフラーのような役割も果たしている。あのマフラーという部品、エンジンから放出される高圧・高速の排気を減圧・減速させて、排気の大気放出時の音響をコントロールしているわけだが、同じようなイメージで喉と口腔を使うことで、管楽器のピッチの乱れを抑制することができるのだ。
 ただ、これは僕の私見だけど、喉と口腔のコントロールは息のスピードを操作しているというより、管楽器内で共鳴している空気柱の、奏者側の開口端の気圧の変化によって補正値を変化させている、というのが物理学的に正解な言い方になるのかもしれない。知らんけど。

 つらつらと書いてはみたが、書いてみて思うのは、僕が経験則でやっている操作をエセ科学で説明している感が否めないな・・・。これ、本当にちゃんとした、科学的な調査・研究って行われてるんだろうか? 気になる。ご存知の方がいらしたら教えてください。すごく興味ある。
 ちなみに木管のリード楽器(サックスやオーボエなど)の場合、フォルテでは息の圧力に耐えきれなくてアンブシュアが緩んだり、ピアノでは音量を絞ろうとするあまり噛みすぎたりすることがピッチの乱れにつながってしまうことが多いような気がする。リード楽器のアンブシュアは、柔軟性も大事だけど、固定する安定性も大事。これは、特に初心者の場合においてはよく起こる現象なので、よくトレーニングしていただきたい。

 しかしなあ、ピアノや電子楽器ならともかく、生楽器ならどれでも、音量に応じて多少のピッチ変動は必ず起こるものだよ。
 だからね、もちろんピッチを安定させるトレーニングや工夫は必要なんだけど、それよりも、合奏の中では多少の変化を許容しつつ、周囲に柔軟にあわせていくことの方がよほど大事だと僕は思うなあ。こんなことを言っちゃうと身もふたもないのかもしれないが、そういうことも含めて、総合的にアンサンブル力を高めていくっていうのが目指すべき事なんじゃない? そんな気がします。
 はい、今日もグダグダでした。ごめんなさい。