笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

神戸にまた暗渠が増えるのか?

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 Hは豪雨で洪水になったのは、人の力ではどうすることもできない災難だったから、
「こんなのを天災いうんやなあ」といった。すると父親が「違う!」といった。
「え?」とHは思ったので聞き返すと、
「これは天災やない。人間が勝手に川を都合ええように変えたから、川が怒ったんや。一番いかんかったんは、川を暗渠にして閉じ込めたからや。そやからこれは人災やで」
 といった。

 

「少年H」 妹尾河童 講談社

 

 生田川の工事が行われている。
 もう半年ぐらいやっているだろうか。まだ終わりそうにない。ずいぶん大がかりな工事だ。何やってるんだろうと思って調べてみたら、山麓バイパスの入り口のある南北の道路を拡張するのだろうだ。
 この、山麓バイパスから港島トンネルにかけての道は、いつも混雑している。山麓バイパス、新神戸トンネル、浜手バイパス、阪神高速3号線、港島トンネル、国道2号線阪神国道)、国道43号線が、全部この道に合流しているせいだ。そりゃあ混むわな。なんとかならんかなあ、とずっと思いながら通行していたけど、やっと改善されることになったらしい。生田川の工事と同時に、浜手バイパス出口のある交差点の改造もおこなわれている。工事の間は不便だが、できあがったらきっと便利になるのだろう。

 便利になるのは結構なのだが、車線の拡張工事で生田川の一部が暗渠化されそうな雰囲気だ。全面的に塞がれるわけではなさそうに見える。しかし、あそこに道ができたら、川面はほとんど見えなくなるよね? それはちょっと寂しいなあ。
 神戸は川の多い街だ。六甲・摩耶・布引山から海へと真っ直ぐストンと流れる川がいくつもある。でも実を言うと、現在目に見えている川は、実際に存在する川の一部にすぎない。何が言いたいかというと、暗渠化された川が神戸にはもうすでにいくつもあるのだ。
 代表的なのは湊川だろう。新開地と長田神社の真ん中あたりで地表に顔を出すまでの部分が暗渠化されている。あと、鯉川(大丸の前を流れている)も比較的知られている方かな。しかし、暗渠化されている川は湊川鯉川だけではない。知っている人は少ないだろうが、生田川には桜谷川、北野川、狐川という三つの川が合流していて、このうち北野川と狐川は流路のほぼすべてが暗渠化されている。なので、この二つの川は、ほとんど姿が見えない。名前も聞いたことがない、という人は多いはず。けど、神戸の河川図にはこの三つの川がちゃんと描かれていて、姿は見えなくても、今もちゃんと川として生きているのだ。

 神戸は、ダムの街であると同時に、暗渠の街でもある。
 まあ神戸に限った話ではないのだろうが、日本の大都市には結構な数の地下河川があるようだ。東京も暗渠だらけだしね。河川を制御しつつ可住域を広げて街を拡張していくには、手っ取り早い方法だったのだろう。
 しかし、ゆえに都市型水害は神戸が抱えている潜在的な不安のひとつである。今も記録と記憶に残るのは、戦前・戦後にあった大水害だ。谷崎潤一郎の「細雪」に描かれているアレ、といえば読書好きの人にはすぐ分かるはず。これが確か、戦前の方。戦後にも確か一度、昭和30年代にあったはずだ。葺合区(現在の中央区の東エリア)の市ヶ原に大きな被害が出たのって、たしかこの水害だったと思う。
 神戸でニュースになった水害といえば、都賀川の鉄砲水などはまだ記憶に新しい。平成のまんなかあたりの時期だったように記憶している。川の事故ではないが、何年か前には大雨で南北方向のトンネルがことごとく通行止めになり、大渋滞が起こったこともある。その日の翌日にマリーホールでオケの本番があって、濁流となった都賀川をホワイエから見下ろして「川って、恐いな」と思ったのを今も忘れない。

 別に暗渠化の善悪を問うわけじゃないのだけど、今回の道路拡張工事、あんなことして治水は大丈夫なのか? という不安を、やはり感じないわけにはいかない。あの暗渠化しようとしているあたり、戦後の水害で護岸が崩壊したあたりじゃないのか? ホンマにあんな工事してエエんか? こわいわー。