笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

製図用シャープペンシル

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 高校生の頃、製図用のシャープペンシルを愛用していた。ぺんてる製のグラフ1000という製品だった。今でも一本持っている。近頃は万年筆ばかり使うので出番はほとんどないけれど、たまに使うと書き味が懐かしくて楽しい。

 中学生から大学生まで、シャープペンシルは何種類も使った。落としてペン先が曲がったり、分解した時に部品をなくしたりしては買い換え、その度に新しい刺激を求めて違う種類のものを選び続けていた。しかし、ある時に製図用のシャープペンシルに出会ってからは製図用シャープペンシルばかり選ぶようになった。
 製図用シャープペンシルは、ペン先の形状が独特だ。段々になっていて、その先に長い固定式のガイドがくっついている。これ、線を引いている手元がめちゃめちゃ見やすい。ガイドが固定式なので、ペン先の長さが変わらないのも使いやすい。
 僕が中高生だったのはもう30年近く前のことになるが、あの頃はまだ、僕のまわりに同じような製図用シャープペンシルを使っている同級生はいなかったと思う。しかし、今ではこの手のシャーペンも気軽に手に入るようになったせいか、演奏指導にお邪魔している中学校の生徒さんがステッドラーの製図用シャープペンシルを使っているのを見かけた。中学生の女の子が、ステッドラーか・・・時代は変わった。おじさんは遠い目になってしまいました。

 僕は、ステッドラーの製図用シャープペンシルを使ったことがない。使ったことがあるのは、国産のものばかり、数種類。ステッドラーのペンも多分素晴らしい書き味なのだろうけど、僕の使った中で最も気に入っているものはやはり、ぺんてる製のグラフ1000だ。
 グラフ1000の何が素晴らしいって、まずは重さとバランス。
 グラフ1000は適度な重さがある。そして重心が手のひらの中にくるようになっているので、とても書きやすい。ペンというものは重すぎても軽すぎてもダメだし、重心が前すぎても後ろすぎてもダメだと思っている。そして、重さと重心と長さと太さのバランスが、自分の手に合うものを選ぶべきだと僕は考えている。今の僕の感覚からいくと、グラフ1000はちょっと細すぎるのだけど、高校生の時にはこのバランスが最高だと感じていた。

 第二の理由は、剛性感。
 グラフ1000の金属のペン先と軸の剛性感はすばらしい。このくらいの細いペンを持つ時、僕はどうしても力がはいってしまうのだけど、グラフ1000はどれだけ力んでもたわみがほとんど生じない。ペンがたわむと、書いていてとても疲れるので、剛性感はとても大事だ。グラフ1000は金属軸。プラ軸の製図シャープペンシルも使ったことがあって、そちらは書く時にどうも頼りなさが目立ち、好きになれなかった。

 そして最後の理由が、マットな塗装。
 あの当時、ああいうマットな質感の塗装を全体に施した金属軸のシャープペンシルって、他にはなかったんじゃないかなあ。僕は確か、ぺんてるのグラフ1000を使う前、同じぺんてる製のグラフレットを使っていて、それも結構気に入っていたのだけど、あれはグリップの部分が光沢のあるローレット加工の金属製だった。で、それは実用上何の問題もないのだけど、そのピカピカを見慣れていたものだから、文房具屋でグリップまで真っ黒のグラフ1000を見つけた時に「渋っ! 渋い!」と感動した。たったそれだけなんだけど、当時の僕にはそのマットな塗装のために、グラフ1000がとってもカッコよく見えた。
 残念なのは、せっかくのマット塗装も一年ほど使い続けるとテカテカしてしまうこと。何も考えずに使った最初の一本はすぐにテカテカしてしまったので、二本目からはどうにかしてテカテカ化をさけようと努力したものだったが、やっぱり一年ほどでテカテカした。高校生が1000円もするシャーペンをそう頻繁に買い換えるわけにもいかないから、なんとかテカテカ化を防ごうと努力したのだけど、どうもテカテカ化は避けられないものらしい。毎日使うなら一年、長くても一年半後にはほぼ確実にテカテカする。
 そういう訳で、グラフ1000の外観の経年劣化は、割と早い。そうそう、マット塗装だけでなく、真鍮製のペン先部分も、段の角の部分の塗装がはがれやすく、地金の黄色い金属がすぐに見えるようになる。何かと摩擦するような部分ではないと思うのだけど、どうしてだろう?
 その劣化を、「使い込んだ味」とみるかただ古びてきただけとみるかは人それぞれでいいと思う。ただ、塗装のマットさを気に入って使っている僕としては、もうちょっと長持ちしてほしいところだ。

 

 ところで、製図用シャープペンシルを日常の学習のお供として使うっていうのは、今の中高生にとって一般的なことなのだろうか? もしそうだとしたら、面白いなあと思う。そして、学生が文房具を選ぶ視点っていうのが、実用本位になってきているんだろうなあと感じる。
 僕は、製図用シャープペンシルは、国語も数学も全部こなせる筆記具として最高だと信じている。限られた本数の筆記具を持ち運んで使うしかない学生にとって、製図用シャープペンシルは間違いなくベストの選択肢だ。壊れにくく、手元が見やすく、筆記線の太さも安定している。おまけに今は、太さのバリエーションもたくさんあるし、芯の柔らかさも好みのものを選べる。
 もし僕が中学校の数学教師だったら、生徒には「製図用のシャープペンシルを使いなさい」って言うだろうな。うん、絶対言う。使うかどうかは本人次第だけどね。