慢性疲労症候群になってからリハビリのために、時々中学校の吹奏楽部に行って、中学生に遊んでもらいつつ、簡単なアドバイスをするという活動をしている。
先だって、トランペットの子から「スライドが重くて操作しにくい」という相談を受けた。
スライドというのは1、3番の枝管のことで、音程調節のために伸び縮みさせることができる。五線の下のレ(実音C)やド#(実音H)の音程を正確にとるためには必須の機能だ。僕のトランペットには3番管だけスライドがついていて、もちろんCやHの時には必要なだけスライドを延ばし、正確な音程で演奏できるように心がけている。ある程度は口元でも調節できるけど、少なくともH音はスライドを操作しないと厳しい。
そのスライドが重いっていうのは、どういうことだ? その子の楽器を持たせてもらい、右手でピストンを押し下げ、左手の薬指で3番のスライドを抜こうとしてみると・・・ああ、確かに重いな。かなり強く力をかけても、スライドが「ぬるーっ・・・」としか動かない。
オイルは、きちんと注している。銘柄はヤマハのスライドオイル。多少、粘度のあるオイルだが、こんなに粘るほど硬くないオイルだと思うんだけどなあ。ああでも、僕も同じオイルを使っていて、ひっかかる感じがすることが時々あるのも事実だ。そういう時は、古いオイルを一度拭き取り、新しく差し直すことで症状は改善する。楽器を丸洗いするのもよい。なので、その時はその中学生に、そんな風にアドバイスした。
その子の楽器はヤマハのカスタムクラス。久しぶりに触ったけど、とにかく工作精度が高い。他人の物なので吹かなかったが、チャンスがあれば吹いてみたいなあ。以前の記事にも書いた通り、トランペットは買い換えを検討している。高級機は買わないつもり・・・なんだけど、中古でいい出物があればカスタムもいいかもしれない。
余談はさておき、その高級機の、精度の高いスライドに使うオイルは、ヤマハのスライドオイルでいいのだろうか? という疑問がわいた。つまり、スライド擦動面のクリアランスが極めて狭いので、そこに粘度の高いオイルをさせば当然、操作性は落ちることになる。これくらいキッチリ作られた楽器には、もうちょっとサラサラしたオイルがあうんじゃないかな。
少し調べてみると、トランペットのスライド専用オイルと銘打って販売されているオイルは、ヤマハ以外には見当たらない。トロンボーンのものはいくつも出てくる。いやいや、トランペットの方だってば。
トランペット用のスライドオイルとして使えるのは・・・ヤマハと・・・ヘットマンもそうなのか? それ以外にはアルキャスのバルブオイルが、バルブだけでなく、スライドを含めた全ての可動部分に使用できることを謳っている。ロータリーにもいける、という意見も見た。ちょっとびっくりしたけど、きちんと潤滑できて、他の部分に使用している油脂類や楽器の金属と反応して異常をおこさなければ、別に何でもいいってことか。
このアルキャスのオイル、人によって意見は違うようだが基本、かなりのサラサラ系らしい。どうだろう、カスタムのスライドにもあうだろうか。あうかもしれないな。僕も一度使ってみたい。よし、試しに買ってみよう。
近所の楽器屋さんに行って、スライドにも使えるかどうかを確認してから購入。お店では「アルキャスを塗った後に、ほんの少しヤマハを足すとよい」という使用方法を教わった。油脂類は基本、混合禁止だが、アルキャスとヤマハは大丈夫みたい。これは僕の予想だが、アルキャスは防錆剤などが入っていないタイプのオイルらしいので、合成油のヤマハを足すことで防錆性を上げたり、少し粘度の高いオイルを混ぜることで油膜切れを防ぐ効果を期待したりできるのかもね。あと、「スライドオイルは塗りすぎると動きが渋くなる」というアドバイスも頂いた。今度、中学生に伝えておこう。
で、中学生に奨める前にまず自分でアルキャスを試してみた。
僕は普段、スライドにヤマハのスライドオイルを塗布している。混合OKときいたので、そのヤマハを拭き取らずにアルキャスをさしてみた。すると・・・おおっ、めっちゃなめらか! ヤマハだけでも何の問題も感じていなかったけど、アルキャスの滑らかさは別格だ。
僕の感覚では、アルキャスの粘度はかなり低い。少なくとも、僕が普段使っているヤマハのレギュラーのバルブオイルよりはサラサラしている。ほぼ水だな。これ、モチはよくないだろうという気がする。30分~1時間ほど練習しただけでは、オイルが切れてしまうような感覚はなかったけど、ヤマハみたいに「2、3日なら差し直さなくても大丈夫」という気持ちにはなれない。潤滑油の粘度について、操作性と耐久性はトレードオフの関係なので、アルキャスを使用するなら、ヤマハよりは頻繁にオイルを足してあげる必要があるだろう。
感触は悪くなかったので、一週間ほど、楽器店で奨められたヤマハ・アルキャス混合方式で僕の楽器を運用してみた。僕の楽器はヤマハだけで問題なく動作していたので、別にアルキャスはなくてもいいかな、というのが正直なところだが、問題も発生せず、中学生に「こういうやり方があるらしいよ」とお話してもいいかな、という確認はできた。
今度、ピストンの方にも使ってみようと思うけど、僕の楽器もちょっと古くなってきたのか、どちらかというと粘度の高いオイルに変えてあげた方がいいような気はしている。今使っているバルブオイルはヤマハの「レギュラー」だから、「ヴィンテージ」にしてみようかな。
オイルの世界も奥深い。面白い。