笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

バンドレン・V16 A5M

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 時々、アルトサックスを吹く。ボディはお邪魔している中学校のものを拝借するが、以前にYAS-62を所有していた名残で、マウスピースだけは持っており、その自分のマウスピースを借り物のボディに取り付ける。僕のアルト用マウスピースは、バンドレンのV16、ミディアムチェンバーのA5だ。リガチャーはウッドストーンのコパー、リードは青箱2.5。
 アルトを吹いていた頃に、色々なマウスピースやリガチャーを試した。クラシック系もジャズ系も一通り試して、最終的に「これが僕の最適解」と結論づけたのが、V16だ。で、いくつかアルト用のマウスピースを持っていたのだけど、アルトを処分した後に、マウスピースだけ持っていても仕方がないと思って、このV16以外はどこかにやってしまった。gottsuの竹のマウスピースなんか手元に残しておけばよかったなあ、なんて今では思うけど、当時はもうアルトなんか吹くことはないだろうと考えていたのだ。残念。
 しかし、最適解を残しただけあって、僕のV16は非常に吹きやすい。個体差が少ない中にも、ある程度はブレがあると言われるモデルだが、僕の手元にある個体はいい方なんじゃないかな。高音に強めの抵抗感があるけど、この手のマウスピースはそんなもんだろう。慣れの範囲内だ。

 ティップの開きが大きすぎない、ラウンドチェンバーでロールオーバーバッフルのラバーが僕にはいいようだ。テナーで使っているマウスピースカフェも同じような仕様である。ダークで太い鳴りをするのがいい。あと、息の入力に対して反応がシャープすぎないのも好みだ。僕は、息の圧力もスピードも高めの方だと思うので、ダイレクトに反応されると、とても硬く鋭い音になる。なので、楽器側でほんのちょっぴり「ため」みたいなものを作ってもらえるとちょうどよくなる、と僕は思っている。

 このマウスピース、トラディショナルなジャズを演奏するのにはちょうどよい。NYメイヤーのレプリカのひとつなのだから、当たり前かな。反面、クラシックの演奏には不向きだ。音色がファットすぎるし、音程の自由度が高すぎるし、クラシック的に余韻を残す吹き方も難しい。そういう訳なので、クラシック系のマウスピースがひとつほしいよなあ、なんて近頃は考えている。アルト用はもちろんなのだが、テナーにもあるといいよね。
 僕はセルマーのセリエ2のテナーを使っていて、買った時には当然、S90が付属していた。しかし、これはさっきの逆パターンで、ジャズには全く向かない。音がキレイすぎるし、音程の自由度が低い。当時、サックスの教えを請うていた先生には「そのマウスピースはすぐに換えましょう」と言われ、その場でバンドレンのV16メタルを貸してくれた。そのV16メタルはしばらく使っていたのだけど、メタルマウスピースのの細さに慣れることができなくて、gottsuのセピアトーンを自分で買い、V16メタルは先生に返した。テナーのマウスピースについては、それから紆余曲折あり、しばらくしてから今のマウスピースカフェに落ち着くことになるのだけど、その話はまた今度。で、その紆余曲折の間にS90は紛失してしまって、今は手元似ない。残しておけばよかったなあ。やっぱり、楽器は迂闊に手放してはいけない。

 クラシック向けのマウスピースというとやはり、セルマーのS90かなあ。まあ、みんな使っているから、安心だし、音色の統一感も得やすいだろう。でも、ひねくれ者の僕の心は「そんなありきたりなことでいいのか?」と問いかけてくる。すると・・・S80か、あるいはバンドレンオプティマム? V5? ヤナギサワのラバーの、オープニングの狭いやつでもいいかもしれない。ヤナギのラバー、テナーのマッピを選んでいた頃に吹いたことがあるけど、素直で吹きやすいマウスピースだった。ジャズをやるには少々物足りなかったので買わなかったけど、あれはいいかもね。お値段も手頃だし。

 物足りない、といえば、実は近頃、気に入っているはずのV16にも、ちょっと物足りなさを感じている。なんだろうなー、別に今のままでも全然問題ないのだけど、ただもうちょっと、フォーカスされた音色がほしいっていう気持ちが芽生えているんだよね。というのは、吹奏楽でポップスの譜面を吹く時に、過剰にジャズっぽくなってしまうからである。ポップスのサックスってさ、もうちょっと明るい音色だよね。別にダークに吹いたっていいんだけど、中学生にはオーソドックスを伝えたいじゃない。
 ラバーがいいと思っている。メタルは咥えた感じが好きではないのだ。だから、バンドレンだとJAVAとかJumbo JAVAのような、ハイバッフル系ラバーがいいかな。それがキンキンしすぎるようなら、スモールチェンバーのV16もいいだろう。
 ただ問題は、それを選定するのに使うボディがないってことだな。うん。

 そういうわけで、当分は今のV16を使い続けるだろう。アルトは吹き慣れないので、僕が吹くとピッチがダダ下がりになる。去年、ヴェノーヴァで呈したのと同じ症状だね。結局、この問題はヴェノーヴァでのトレーニングでは解決しなかったなあ。夏に、高校生に混じってアルトを吹いた時には、何とか間に合わせたけど、まあ要するに、練習不足なんだよ。頑張ります。

黒本はバイブルである。

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 ジャズのスタンダード集はいくつかあるが、2024年現在、おそらく最も広く使われているのはリットー・ミュージックから刊行されている「ジャズ・スタンダード・バイブル(納浩一 編・著)」ではなかろうか。「ジャズ・スタンダード集」のようなキーワードでAmazon検索すると上位にヒットするし、楽譜を取り扱っているお店の書棚でもよく見かける。
 表紙の色が黒いので、通称・黒本と呼ばれている。それ以前には、real bookだとか、全音の「スタンダードジャズのすべて」などがよく使われていたようだ。全音のものは、上下巻に別れており、それぞれの表紙の色で赤本・青本と呼ばれているらしい。
 僕は、この赤本・青本および、黒本のin Cとin Bbをすでに持っているが、先日、黒本のin Ebを買い足した。アルトサックスの調でスタンダードを練習できるようにするためだ。他の黒本を自分で移調してもよかったのだけど、そして、そういう練習も役に立つのだろうけれど、その作業と能力の獲得には時間がかかるし、今の僕の能力の限界を超えている。227曲のスタンダードナンバーを移調するのにかかる時間が、3500円+taxのペイで省略できるのなら、お買い得だと考えた。

 アルトサックスで吹きたいスタンダード・・・やはり、パーカーのが多いだろうか。つまり、「Ornithorogy」とか「Confirmation」とか。あと、デスモンドの「Take Five」もアルトのキー(in Eb)がしっくりくる。この曲は他の楽器だと、それなりに難しい(in Cでbが6コ)。できんことないけど、やりやすくはないな。
 黒本には、黒本・2もあって、それはin Cだけ持っている。通常の黒本・1よりは、ほんのちょっとマニアックな選曲になっていて、でもよく知られた曲ばかりだから、メインで使う楽器のキーのものは持っていて損はないだろう。「As Time Goes By」とか「Five Spot after Dark」とか・・・黒本・1に入りきらなかったものを集めました、って感じかなあ。知らんけど。
 黒本を赤本・青本と比較すると、僕の印象にすぎないが、全音の方がコード割りが細かい傾向にあるかなあ。個人的には、譜面がうるさくなりすぎない方が好きなので、黒本の方が好みだ。コードのつながりも読み取りやすい。
 ただ、赤本・青本にもアドバンテージがあって、それは曲数が多いのと、歌詞が書いてあること。楽器で演奏するにしても、音符に対するシラブルの割り当てを知りたい時というのは時々あって、テーマのフェイクを考える時には参考になる。

 しかし・・・管楽器奏者としてはやっぱり、黒本が使いやすい。
 先ほども書いたが、コードのつながりが読み取りやすい。これは、特にアドリブを考える上では重要だ。○maj7ならトニックかサブトミ、○7ならドミナント(時々セカンダリドミナント。あるいはペンタトニックの要求)みたいに、コード機能と表記がある程度一致していた方がアドリブはやりやすい。逆に、コードはトニックだけどロディが9thみたいなのを丁寧にコードに織り込んで表現していると、ちょっと混乱する。黒本はそのあたりが、ほどよくテキトーなので、いい。どうせ、そのあたりのことは、譜面を2、3秒眺めれば分かることだし。
 あと、紙質がいいことと、印刷が大きいことも、黒本の美点だ。
 明るいところでゆっくり読むなら、目の粗い紙質に小さくプリントしてあっても問題はない。しかし、薄暗い場所で素早く音符やコードを読み取らなければならないような場合に譜面が、明るい白色の紙に大きくくっきり印刷してあることはとても重要である。紙質がマットなのもいい。さっきとは反対に、屋外などで直射日光をうけるようなステージでは、光沢紙だと反射してしまって読みづらい。また、こういうシチュエーションでも、紙の色合いと印字のコントラストがはっきりしているのは有り難い。そして、それなりに斤量のある紙がつかわれていてページが破れにくいのも助かる。さらに言うと、黒本の紙は変色もしにくい。最初に買ったin Cの譜面はもう10年以上使っているけど、変色も劣化もページ破れもない。素敵。
 そして、さらにさらに。黒本のページは、鉛筆での書き込みが容易で、しかも書き込みとプリントの区別がしやすい。ホントにね、もう、黒本最強。
 徹頭徹尾、実用的なスタンダード集である黒本、まさにバイブルである。

 ただ、「じゃあもう、黒本しか使わないんだ?」ってことかというと、そうでもなくて、やはり赤本・青本も使う。辞書的に使うよね。やはりさっきも書いたが、歌詞が知りたい時には赤本・青本をひらく。あと、黒本にない曲の楽譜を探す時。カバーしているレパートリーに差があるので、補い合わせるようにして使うと便利だ。
 この赤本・青本は、全音の「プロフェッショナルユース」のシリーズで、ジャズだけではなく、ラテン・ミュージックや歌謡曲のシリーズもある。以前、ピアソラの「Libertango」を演奏することになった時、ジャズ系の手持ちの楽譜にはなくて、全音のラテン曲集を利用した。ポップスの全集も持っていて、吹奏楽部でポップスを演奏する機会があると、下勉強するのに使っている。スコアがコンデンスドだったりすると、メロディもコードも読み取りにくい場合があるので、そういう時はリードシートの方が曲をつかみやすい。便利だ。

 全音の「プロフェッショナルユース」シリーズは役に立つ。けど「あればいいのに」と思うのが、クリスマスソング集である。山下達郎のアノ曲とか、広瀬香美のアノ曲とか、マライア・キャリーのアノ曲を集めた分冊みたいなのがあるといいなあと、冬になる度に思うのだけど、なぜか存在しない。クリスマスソング集ってさ、ピアノ用とか独奏+ピアノ伴奏用とかってあるんだけど、リードシートを集めた本ってないよね。あと、アニソン集も。需要はあると予想するのだけど、なぜだろう。権利の問題だろうか。
 そうそう、権利の問題と言えば、話はジャズにもどるのだけど、「Misty」って絶対収録されてないよね。あれって、詳しいことは知らないのだけど、著作権の問題らしい。著作権はミュージシャンの権利と収入を守る上で大切なものだから、ないがしろにしてはいけないけど、「Misty」の譜面はほしいなあ。キレイな曲だし。

 体の調子が戻ったら、ジャムセッションも行ってみたいよね。何度か行ったことあるけど、とても緊張する。でも、それがいい。黒本でさらっとこうっと。

ひなまつり。

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 我が家には娘がいるので、3月になるとひな人形を飾る習慣がある。コンパクトな親王飾りのおひな様は、娘が生まれた年の春に買った。親王飾りは、場所をとらないし、飾るのも片付けるのも手軽でよい。狭小マンション住まいには最適である。
 僕は男兄弟だのだけど、僕が小さかった頃に実家では毎年、なぜか母のひな人形を飾っていた。うろ覚えではあるが確か、昔風情の、五段くらいある大きなひな飾りで、多分、三人官女も五人囃子もそろっていたんじゃないかな。祖母が出していたんだと思う。仕舞いっぱなしだと黴びるから、などと言いながら、人形をつつんだ紙を丁寧に剥ぎ取りながら並べていたっけ。
 あのサイズのひな飾りは、今の我が家には無理だな。二畳ぐらいスペースをとるはずなので、もしあれを飾ったら、生活空間が著しく圧迫されるだろう。片付けて仕舞っておく収納もない。そもそも、黴びるから、などという理由で出したり引っ込めたりする気概がない。そういうものって、いつか触らなくなってしまう。毎年出し入れしても苦にならないし邪魔にもならない親王飾りは、我が家にはちょうどいい。

 おひな様は、仕舞い遅れると行き遅れる、などという謂われがあるが、我が家ではあまり気にしてなくて、ひな祭りが済んだ後の土日に子どもと一緒に片付ける習慣になっている。いまどき、行き遅れるなんてことを気にする人いるのかな? ただ、放っておくとお人形が埃をかぶってしまうので、長引かせすぎないようにはしているけど。

 そして、今年もひな人形を片付ける子ども達を眺めながら、思う。うちの娘もいつかかたづく日がくるのだろうか。かたづいてほしいような、ほしくないような。