笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

横浜が僕を呼んでいる。

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 以前、神奈川県の横浜市に住んでいた。10年以上いたと記憶している。大学進学で住み始め、卒業後も関東圏で仕事をしていた。
 横浜では音楽もずっと続けていた。高校生まで吹いていたフルートはそのまま継続し、就職した後に、トロンボーンとサックスを習い覚えた。フルートはオケ、トロンボーンはブリティッシュブラス、サックスはジャズという棲み分けだった。
 この3つの楽器の中で異質なのはトロンボーンだろう。なぜフルート吹きの僕がトロンボーンを吹くようになったかというと、仕事でかかわりのあった人から子どものブラスバンドを面倒見てやってほしいと頼まれて、地域バンドに出入りするようになったからだ。6年くらいいたかなあ。最初はドレミくらい教えられればいいや、と思っていたのだけど、長く関わることになりそうな気配を感じて、金管楽器にチャレンジする決意をした。まともに吹けるようになるまで2年かかったと記憶している。吹き方は、教えていた子どもに教わった。どっちが大人でどっちが子どもなんだか。でも、楽しかった。

 その子どもの地域バンドには、大人の地域バンドの人も出入りして指導をしていた。
 その大人のブラスの代表をやっている人が気さくな方で、金管楽器の経験のない僕をバンドに誘ってくれた。フルート専門だった僕を、どうしてブラスに誘ったのかは分からない。僕もなぜ行く気になったのかわからない。でも、とにかく、フルート吹きのはずの僕は楽器をトロンボーンに持ち替えて、そのバンドに飛び込んだ。当たり前だが、バンドに所属すればそのうちに本番がやってくる。必死のパッチで練習したのはいい思い出だ。本番は間違いなく、奏者を鍛える。今の僕が、中学生にちょっとアドバイスするくらいなら問題ない程度には金管楽器を扱えるのは、この経験のお陰だ。とても感謝している。
 で、家庭の事情で僕は神戸に戻ってくることになり、さすがに神戸と横浜を往復して演奏活動する余裕はなかったので、泣く泣くバンドを去ることになった。

 僕が横浜を離れてすでに、干支が一巡り以上している。その間、そのブリティッシュブラスとの関わりは全くなかったのだけど、先だって、ブラスの代表をやっていた人から久しぶりに連絡があって、○十周年記念のコンサートがあるから顔を出さないか、とお誘いを受けた。
 横浜か・・・ちと遠い。しかし、せっかくお誘い頂いたし、お断りばかりしていては次のお誘いも遠のくだろうと考え、思い切ってお誘いにのることにした。
 新幹線の席をとり、日帰りの旅程を組んだ。泊まりでもよかったのだが、日本への旅行者が増えたせいか、ホテル代が異常に高いので諦めた。ネカフェという選択肢もあったけど、土曜日の旅行ということもあり、万が一にはネカフェも満席ということもありえると思って、日帰りと決めた。

 当日。
 新神戸からひかり号に乗車する。朝の9時台の便だ。新幹線に乗る時には、旅のお供にスジャータのアイスかビールを頂くと決めている。現在、新幹線の車内販売が終了しているため、車内でアイスを買うことができないので、往路はビールと決めた。でもさすがに、朝の9時からビールというのは、家庭のあるまっとうな大人としてどうかな・・・と不安になり、ノンアルにしておく。近頃のノンアルは、以前に比べてよりビールらしくなった。昔は、ドロっと舌にからむ妙な甘みがあって「これはやっぱり、ビールじゃねえ」って気分になったものだけど、今のノンアルはそのドロリ感がなく、よりビールらしい味わいになっている。これで十分だよ、うん、満足。
 会場は、子どもの地域バンドが活動していた小学校の体育館。JRの在来線で移動したけど、変わんなねぇな、横浜! 車窓の風景が、僕が生活していた十数年前とほとんど変わらない。ランドマークタワーにコスモクロック・・・昔のままだ。桜木町の駅前にロープウェイができたようだけど、変わったといえばそれくらいじゃない? まるで昨日まで横浜に住んでいたかのようなタイムスリップ感。変な感じだ。
 変わらないのは、街だけじゃない。コンサート会場についてみれば、知り合いばかりで、懐かしいこと懐かしいこと。子どものバンドのメンバーはさすがに入れ替わっているけど、大人の地域バンドはみんな懐かしい面々だし、子どものバンドをサポートしているのは僕が関わっていた当時の保護者会の人たちがそのまま後援会にスライドしただけだし、干支がひとめぐりするほどの時間が経っているなんて、全然実感できなかった。
 コンサートのあとには懇親会もあり、昔なじみの人たちと楽しいひとときを過ごした。横浜に住んでいる人たちは、ひょっとしたらその後に二次会なんかあったのかもしれないけど、日帰りのつもりで新幹線の指定席をとってしまった僕は、ここでサヨナラ。やっぱり泊まりにしておけばよかったかなあ。残念。
 新神戸に停車する最終の便で神戸に戻った。席に腰をおろして、新横浜のホームで手に入れたスジャータのアイスを食べた後にはもう記憶がなく、気がついたら名古屋駅だった。眠っていたようだ。僕はよほど疲れていたらしい。名古屋で一旦目覚めてからは、寝過ごすのが怖くて、うとうとしながらも何とか意識を保った。
 いやー、楽しかったな。
 今回はブラス関係(=トロンボーン関係)の人たちに再会する旅だったけど、ジャズやオケの関係の旧友にもまた会いたいなあ。最近は、子どもも大きくなってきて、以前ほど手がかからなくなってきたから、妻の了解さえ得られればそういう機会を自分からつくってもいいかもね。その時は、泊まりにしたいな。出費はかさむだろうけど、こういうのってプライスレスでしょ。貯金しとこう。

 この横浜旅行に際して、たったひとつの心配事が体調だったのだけど、旅行中には倦怠感を感じることもなく、快適に、楽しく過ごせた。しかし、やはり疲労は大きく、翌日は一日起き上がることができなかった。新幹線の指定席で移動し、コンサートを聴き、二時間の宴会(全然、ヘビーでもストレスフルでもない)を楽しんだだけで、その次の日が丸一日潰れるなんていうのは、いくら歳をとってきたとはいえ、さすがにヘタレすぎる。症状の改善は実感しているものの、まだもう一息、というのが実感だ。
 それでも、罹患当初よりは疲れにくくなっているし、疲れた時でもふんばりが効くようにはなってきた。もちろんツケは後で払わなければならないのだが、それも、以前に比べると早くリカバリーを終えられると感じる。
 さて、春だ。新年度が始まる。とにかく、一年一年、乗り越えていくしかない。気長にやりましょう。

「How High the Moon」⇔「Ornithology」

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 「Confirmation」と平行して、いくつかの曲を覚えようとしている。「How High the Moon」と「Ornithology」もそれぞれに、そのうちのひとつだ。
 ジャズスタンダードではよくあることだがこの2曲も、有名曲のコード進行を借りて別のメロディを載せ替えてテーマにするパターンだ。多分、「How High the Moon」がオリジナルで、「Ornithology」がパーカーの載せ替え。「How High the Moon」のコードに別のテーマが載る曲は他にもあるようだけど、一番よく聴かれるのはやっぱり、「Ornithology」だろうなあ。「How High the Moon」のアドリブで、「Ornithology」のテーマを一部引用するなんてこともよくあるし。
 楽節の途中で長調短調とチェンジし、その短調になったコードをⅡm7ととらえてさらに転調、というのが基本パターン。曲の流れをパターンでとらえると覚える時に便利だ。まだ十分には慣れていないけれど、コードを逐一覚えるよりは早くて楽だろう。歌伴なんかで曲のキーをシフトする時も、流れで覚えておけばすぐに対応できるはず。
 ところで、黒本ではこのふたつの曲が同じキーで掲載されているのだけど、曲の中盤に出てくるEbのコードが、一方は7thで、もう一方がmaj7になっている。なんで違うんだろう。多分、曲のダイアトニックに即した書き方としてはmaj7が正解だと思うのだが、7thの方がリフものらしい処理ができるっている配慮なのかなあ。あるいは、マイナーペンタを要求するⅣ7だろうか。パーカーはこの位置にこのコードをもってくる、このパターンが好きっぽいよね。知らんけど。

 昨今は日本でも著作権に関するルールの厳密化が進んでいるが、パーカーが活躍してた頃のアメリカって、どうだったんだろう。こんなにあからさまに、コード進行をパクって問題なかったのだろうか。欧米はそこのあたりの意識が、伝統的に高そうなイメージがある。テーマを含めてあからさまな剽窃をするのはさすがに問題だったろうとは思うのだけど、コードだけならお目こぼししてもらえたのかな。「I Got Rhythm」のコード進行なんて、リズム・チェンジ(Rhythm Change)と異名をつけられて広く使われるほど、パクられまくっている。それだけ秀逸なコード進行だってことではあるが、著作権ということに関して言えばグレーだよね。ガーシュインは文句言わなかったんだろうか。あるいは、パクった曲がヒットして「原曲は何だ?」ってところからオリジナルの人気に火がつけば儲けにつながる、という判断から黙認だったのかな。これも、知らん。

 とにかく、21世紀の演者としては、ひとつコード進行を覚えれば、いくつかの曲に流用できるので、とってもお得。頑張って練習しましょう。

「やれっ」と言われて出来ない「Confirmation」。

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 チャーリー・パーカーの代表曲のひとつ、「Confirmation」をさらっている。
 横浜でジャズスクールに通っていた頃、師匠に「ジャズは基本、暗譜だ」と言われた。暗譜・・・苦手です。でも、その教室で発表会に出ろと言われた時には、ちゃんと暗譜したような記憶がある。師匠のアレンジしたサックスアンサンブルの時も、「Take the "A" Train」をコンボでやった時も、当時の写真を見ると譜面台をたてていないことがわかり、暗譜したのは多分間違いないだろう。
 なので、ジャズの曲をさらう時には、覚えるまでやるのが基本と心得ている。もちろん、テーマだけではなく、コードも。
 しかし「Confirmation」をまるっと覚えるとなると、なかなか大変だ。歌モノのスタンダードに比べると音数が多いし、コードも複雑。これ、皆さんはどうやって覚えているんですか? 何かコツってあるんですか? 「こういう風にやってるよ」っていうやり方があったら教えて下さい。
 僕はというと、実に原始的なのだけど、とにかく何回も何回も、繰り返し繰り返し、吹きまくる、という方法で覚えようとしている。iReal Proのリピートを10回ぐらいに設定して、音を鳴らし続け、指と耳が慣れてしまうまで続けるのだ。10回前後に設定している理由は、それが連続で吹ける限界だから。それ以上に設定すると、フルートでは首が痛くなってくるし、サックスではアンブシュアに限界がきてしまう。

 で、そのセットを休憩をはさみながら何セットもやっていると、四十路の中年オヤジの脳ミソでもだんだん覚えてくるから不思議である。そして、ただ記憶として定着するだけではくて、「このBb7はマイナーペンタだな」とか「ここのC7はハーモニックマイナーが意識されている」みたいに理解が進む。そういうことが分かってくると、当然、アドリブがやりやすくなるわけで、ああなるほど、だから師匠は暗譜しろと宣うたわけか、と僕は肯く。

 しかし、そうやってコードのフローが見えてきてもやはり、「Confirmation」は難しい。
 動画サイトで誰かが「"やれっ"と言われて出来ない"Confirmation"」と替え歌しているのを拝聴したことがあるけど、うーん、本当にそうだと思う。「Confirmation」の面白さって、あのスピードで、あのバップ的なコード割りに対してある程度愚直に振る舞う難しさにこそあると思っていて、やっぱりそれって、簡単じゃない。僕もとりあえず、まずはコードごとのダイアトニックを意識て演奏しようとしているけれど、ノーミスでプレイできるというレベルにはまだ達しない。強引にF(BメロはBb)の重力圏でまるっととらえるという方法もあるけど・・・それじゃつまらんもんね。まずはコードに沿って演奏できるようになろう。そして、アウトするにしても強引にペンタでぶち抜くにしても、それはサイドストーリーなのであって、本筋ではない。「Confirmation」を「Confirmation」として、「Confirmation」らしく味わうためには、あのバップなコードを攻略してこそ、だと思う。

 ところで、「Confirmation」って「確認」っていう意味らしい。そういや、コンビニの端末で振り込みやチャージをする時に、「確認〈Confirm〉」って出てくるなあ。パーカーはこの曲で何を確認していたんだろう。振込手数料ではないと思うのだけど。