笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

喫茶ドニエ

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 水道筋による用事があって、その帰り、ちょっと疲れたのでお茶を飲むことにした。休日の夕方で、どの店も割と混んでいた。あちこちの店をのぞきこんで、ここならすぐに座れそうだと足を踏み入れたのが、喫茶ドニエ。
 ザ・昭和レトロ。わわわ、こういう喫茶店、久しぶりに来たよ。昭和モノの朝ドラに出てくる喫茶店みたいな内装だ。ソファの手触りだとかランプシェードの形だとか・・・ギリギリ昭和人間の僕にとっては、かなり懐かしい。こういう喫茶店、昔はよくあったよなあ。コメダ珈琲なんかは、この手の昭和レトロ感をよく再現しているけど、やっぱりちょっと今風に明るくて、この喫茶ドニエみたいな昭和的薄暗さがない。喫茶ドニエは本物だ。これぞ昭和、とてもいい。
 さて何を頼もうかと思ってメニューを眺め、それから店内を見回す。コーヒーはサイフォンで淹れているようだ。いいね、サイフォン。僕も高校生の時に使っていた。手入れが面倒なので今はペーパーフィルターでドリップしているけど、僕はサイフォンで淹れるコーヒーの味が好きだ。レジの近くには、ストレートコーヒーのリストの看板がかかっている。コーヒーにしようか・・・でも今はちょっと、コーヒーの気分じゃないんだ。疲れているし、喉が渇いている。
 そこで、クリームソーダを注文した。
 しばらく待つとウェイターさんが緑色の飲み物を運んできて、皮のコースターにのせて僕の前に置いた。あはは、これこそクリームソーダ、懐かしい。アイスの上に、シロップ漬けのチェリーがのっている。そうそう、やっぱりクリームソーダにはこれがいるよね。
 先にソーダを飲むとチェリーが沈んでしまうので、まずチェリーを食べる。うーん、ちょっと苦みを感じる甘さ、懐かしい。子どもの頃、好きだったなあ。百貨店のレストランで食べるお子様ランチのプリンにも載ってたよね、このチェリー。個人的な意見だけど、昭和を代表する食品のひとつだと思う。

 しかし、昭和レトロって一体なんだろうな。昭和という時代は長い。大きく三つのフェーズに分けてみれば、戦争にむかっていく初期、敗戦のどん底から這い上がっていく中期、バブル経済で浮かれポンチの後期。令和の若者が昭和レトロと呼んで有り難がっている風物は、中期頃のものが多いだろうか。レコードなんて、まさに昭和中期の文化だよね。後期にはいると、レコードは段々廃れて、カセットテープとウォークマン、そしてコンパクトディスクへと移行していくもん。じゃあつまり、1950年代から70年代くらいの風俗ってことか。ということは、僕が今目の前にしているクリームソーダ、50年以上前の風俗ということになる。
 古いものが一概にいいとも言えないだろうけど、文化として生きた姿で市井にあり、こうやって手軽に触れられるのは素晴らしいことだ。
 昭和生まれの僕にとって、昭和レトロと言われてもなんだかピンとこないところもあるが、文化の動体保存、大事なことである。あと30年後にも、同じクリームソーダが飲めるといいな。
 喫茶ドニエ、素敵なお店でした。拍手。