笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

Every Pie


f:id:sekimogura:20211202223345j:image

 

 お使い行ってきて、と妻に頼まれた。何を買ってくるのかと問い返すと「パイ」と返事が返ってきた。パイ? そんなもののお使いを頼まれたことは一度もなくて、ちょっと面食らった。
 阪急六甲の少し山側に、最近パイ屋さんができたのだそうだ。そこのパイがおいしいらしくて、注文してあるからとってきてほしいと妻は僕に説明した。僕は首をかしげる。そんなところにパイ屋さんなんてあったっけ? デリカテッセンがあったのは知ってるけど。そう返事すると、今度は妻が首をかしげ、デリカテッセンなど知らないと応えた。
 まあいい、注文してあるのなら代金を払って商品を受け取るだけだ。僕はひとり、車ででかけた。
 その時は義理の両親がうちに遊びに来ていて、パイは彼らに渡すおみやげらしい。義理の両親は、コロナが落ち着いたタイミングを見計らって孫の顔を見に来てくれた。どこかに買い物に行くときは子どもにも声をかけて、希望者は一緒にでかけるのが我が家のならいだが、今回は声もかけず、ひとりで出かけた。車に一人で乗ることはあまりないので、新鮮な気分で運転できた。
 パイ屋さんの名前はEveryPie。その看板を探しながらゆっくり車を走らせる。同時に、デリカテッセンも探す。あれ、デリカテッセンないなあ。確かあったと思ったのだけど。僕の記憶違いか。
 パイ屋さんはすぐに見つかった。小さいお店なのだけど、わかりやすいテントが入り口を飾っている。車を駐めて中に入ると、すでにひとりお客さんがいた。お客は僕とその人だけなのに、もう窮屈に感じるほど小さなお店だ。子ども、連れてこなくて正解。しかし、小さいながらもモノが無駄なくレイアウトされていて、買い物しやすく工夫されている。いいお店だな、と思った。

 先にいたお客さんが帰って僕の番になり、妻の名前を告げて商品を出してもらった。店員さんはひとり。店の内側も、二人もはいれば窮屈そうなほど狭い。その狭い空間に、パイを焼くための機材なんかが並んでいる。オーブンの中では今まさにパイが焼けているところ。美味しそうだ。パイの仕込みは違うところでやっているのかもしれないが、焼くのはここでやっているのか、すごいな。
 注文したパイをつめてもらいながら店員さんに、このあたりにデリカテッセンはなかったかと尋ねてみた。すると、「以前ここはソーセージ屋さんでしたから、それがそうかもしれません」と返事が返ってきた。なるほど。そういうことか。
 パイを持ち帰り、半分は義理の両親に渡して、残りの半分を家族で食べた。ミルフィーユ生地の軽い食感、サクサクで美味しい。
 近頃、繁華街でない場所にこういう小さなお店ができているのをちょいちょい見かける。とてもいいと思う。絞り込んだ商品展開で、上質なものを提供してくれるところが多い。なんとなくお洒落でもある。値段もそう高くない。おうちで楽しむプチ贅沢って感じぐらいだ。
 こういうお店、好きだ。この手のお店がもっと出来るといいのにな。こういうお店が増えてこそ、神戸という街の価値はもっと高まると思うと僕は思うのだけど、市長さんはどう思ってるのかな。ターミナル駅周辺の刷新も大事だけどさ、こういうスモールビジネスが元気になるような政策、何かとってます? アフターコロナの神戸、点ではなくて面で盛り上がるような未来を期待してます。