笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

自転車


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 春から具合が悪く、ちょっと出かけるのにも難儀している。少し歩いただけで息切れするし、無理をすると後で強烈な倦怠感に襲われる。ここ数日は少し持ち直し、体調が上向いてきているように感じるが、油断はできない。疲れを感じたら無理をしないように心がけて過ごしている。それでも、用事があって出かけた先から戻るときに疲れを感じることがあり、そうすると必ず翌日にツケがくる。
 でも、近頃気づいたことがあるのだ。
 それは、徒歩で移動すると疲れやすいのだが、自転車だとあまり疲れや倦怠感を感じずにすむという事実。理由はわからない。例えば大倉山の図書館に行くのに普通であれば地下鉄を使うのだけど、先だって気晴らしを兼ねて自転車でゆっくりと図書館まで走ってみたら、案外どうってことなかったのだ。
 なんで?
 いやとにかく、理由は分からないが、自転車で移動すればあまりダメージをうけずに過ごせるようだ。不思議だし、合理的な説明は難しいけど、やっぱり僕には二輪車が体にあっているのかもしれない。

 バイクが好きだったことは以前にも書いたが、実を言うと自転車も結構好きだ。レースやツーリングなんかはしない。けど・・・なんだっけ、えーと、ポタリング? そのへんをチョロチョロっと楽しく走る程度の、散歩みたいなやつ。そういう乗り方を以前はよくしていた。
 どうせ走るなら楽しく走りたいので、アルミフレームのクロスバイクに乗っている。完成車を買って、ペダルだけ金属製に換装した。もう3、4年くらい乗ってるんじゃないかな? ほぼノーマルだけど、性能には満足している。むしろ、街乗りであちこちをちょこまか動くなら、逆にこれぐらいの方がいい。高いパーツを奢ると盗難が恐いし、そもそも自宅から半径5km以内くらいの移動ならその気軽さも性能のうちだ。

 僕は、子どもの頃にデコチャリに憧れた世代である。ブームはもう、去りかかった頃だったかも知れない。ただ、リトラクタブルのライトだとかウィンカーだとかシフトレバーだとかのついた仰々しいチャリンコはその辺でちょいちょい見かけて、いつかああいう豪華仕様の自転車に乗ってみたいと幼い頃は思っていた。
 実際にそういうギンギラギンのチャリンコにまたがる機会はなかった。小学生時代は、なんてことない子ども向けの自転車をあてがわれて過ごした。そうやって僕は、小学生としてあたりまえの自転車乗車スキルを身につけたが、中高は学校がえらく遠かったために電車通学で、かえって自転車には乗らない生活が続いた。
 僕が再び自転車に乗るようになったのは、大学生になり、横浜で生活を始めてからだ。
 大学の徒歩圏に下宿していたのだけど、大学は横浜市内とはいえ少し奥まったところにあったので、電車の駅はどこも遠かった。最寄り駅までは徒歩で二十分ぐらいかかったように覚えている。しかも、横浜という土地は坂の街で、坂の上、台地のほぼてっぺんに住んでいた僕の場合、谷底の駅までの往路は下り坂で徒歩20分弱だが、帰宅する復路は上り坂30分みたいな所だった。
 大学に入学してすぐ、まだ運転免許を持っていなかった僕は、とにかく下り坂の往路だけでも楽をしたくて、自転車を買った。そしてその自転車で、常盤台のてっぺんから帷子川の谷底へまっしぐらに落下する。気持ちよかった。帰りは、さっき下った急坂をゼイゼイいいながら自転車を押さなければならないのだけど、その下り坂の風を切る心地よさによって、僕は二輪車生活に目覚めたと言っても過言ではない。
 最初は廉価なママチャリだった。しかし、もう少し余分にお金を出して高性能な自転車を買えば、もっと快適に、もっと遠くへ移動できると、サークルの先輩だか誰だかに吹き込まれて、アルミフレームのマウンテンバイクを買った。
 メーカーは確かメリダだったと思う。メリダはよく走った。よほどの荒天でなければ、僕はどこに行くにもメリダで移動した。3×8の24段変速で、インナーローを使えば、ママチャリでは押さないと上れなかった帰り道の急坂も、自転車にまたがったまま登り切ることができると気づいた時には感動さえした。逆にトップギアに入れれば、深夜の国道16号を原付以上のスピードで疾駆することも可能で、西横浜からの山越えコースで黄金町のアルバイト先(あやしいバイトではない)まで20分ほどで到着できた。
 僕は、大学2年の秋に免許を取得して原付を手に入れるまで、とにかくメリダを乗り倒した。その頃の僕の太ももは、さすがに競輪選手のようとまでは言えないまでも、とにかく僕の人生で最大級の太さであった。
 今はもう、僕の脚はあの頃ほど太くはない。大根ともやしほどの差がある。しかし、あの学生時代の脚力はもうとっくに失われてしまったものと思っていたが、案外、今でもその力の残滓は僕の脚に残っているのかもしれない。人生、何が幸いするか分からないものだ。

 今年は10月の中旬に突然気温が下がり、秋物を着て過ごす期間がなかった。冬は案外早くやってくるかもしれない。真冬に自転車はちょっとキツいから、六甲おろしが吹かないうちは自転車に乗って消耗を防ぎ、体力の回復を待とう。
 早く元通りの生活に戻りたいものだ。