笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

ペーパーウェイト


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 ペーパーウェイトとは要するに文鎮で、筆記時に紙を平らにしたり風でめくれたりしないようにするための、いわば重しである。
 ペーパーウェイトなんて言うと仰々しいが要するに、筆記の邪魔をせずに紙を押さえられれば何でもいい。そういう意味では大きめの消しゴムでもいいし、河原で拾った石だって構わないわけだ。でもせっかくだから、気分良く使えるものを選びたいのが人情だ。僕は高校時代の友人にもらった、石製の置物をペーパーウェイトとして使っている。

 どういういきさつでこの亀のような置物をもらったのかは忘れてしまった。それが本当に亀なのか、そして一体何の道具なのかも分からない。多分亀だと思うのだけど、ひょっとしたら神獣みたいなものなのかもしれない。そう考えると玄武か何かのようにも思えてくる。もちろん、確かではない。本来の用途は全く不明だ。甲羅に蓮とおぼしき花弁の開いた筺を背負っていて、その真ん中に穴が開いているが、鉛筆を立てるには小さすぎるし、墨だとかそういう液体を貯めるには浅すぎる。

 あるとき、この置物はペーパーウェイトに使えるんではないかと気づいて、実際に紙の端に重しとして置いてみたら実に具合がよかった。以来、この置物は文鎮であると僕は決めている。窓から多少強い風が吹き込んでもちゃんと紙を押さえていてくれるし、赤子のこぶし大のサイズなので邪魔にもならない。今では書き物をする時には必ず使うようになった。僕にとって欠かせないデスクアイテムのひとつになっている。

 じゃあそれまでは一体どうしていたのかというと、本棚の上に放置されて埃をかぶっていた。その本棚の上には、一度も使わなかったキーホルダーや用途の分からない金属片なんかがまとめて置いてある。使わないなら捨てればいいのに、と思うこともあるのだけど、不思議とどれも捨てられない。別に愛着がある訳でも物語がある訳でもないのに。ただ、そのうちのいくつかはこのペーパーウェイトのように、不意に用途を見いだされ、僕の日用品に昇格することもあるから、無情の土塊とはいえ人生はわからないものだ。

 人間だって、今は役に立たないからって、無碍に扱ってはならないものなのだから、物だって同じことだと思う。僕は、ミニマリストにはなれそうにないな。