笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

AKAI EWI4000SW


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 EWIを買ったのはもう十年近く前だろうか。
 深夜に自宅で吹くために買った。日が落ちてから街中の家でフルートやサックスの生音を鳴らすわけにはいかない。EWIの価格をカラオケボックスの夜間料金で割り算し、「何時間分かなあ」なんて秤にかけて、買った方がお得だという結論に達した。多分、もう元は取ったと思う。
 しばらく吹いていなかったのだけど、先だって久しぶりに引っ張り出してきた。近頃出番のないストロボ用の充電池をセットして吹いてみると、ちゃんと鳴った。
 また吹く気になったのには理由がある。お世話させていただいている吹奏楽部の指導で使うためだ。僕はホルンのF譜が苦手で、どうしても瞬間的にに実音に変換することができない。サックスの経験があるのでEs譜とBb譜は問題ないのだけど、F譜だけはダメなのだ。実音がすぐに読み取れないと、ホルン奏者の出すべき音と実際に鳴っている音が一致しているのかが分からない。実音が分からないとキーボードで鳴らすこともできない。これでは指導にならない。
 で、EWIを持っていって小型のラジカセのAUXにつなぎ、in Fに移調して鳴らしながらホルンを教えた。結果は上々だった。今までは頭の中で必死に移調し、小型のキーボードで音を確かめていたが、これなら一発で必要な音を出せる。電子楽器は音色や音の形の変化がつけにくいのであまり好きではないのだけど、こういう場面では生楽器の何十倍も便利だ。
 僕が持っているのは、EWI4000SWという先代の音源内蔵モデルである。
 さっき、フルートやサックスの代用品みたいなことを書いたが、正直に言えば、全然代用品にはならない。タッチセンサーのキィシステムのせいだ。インターフェイスについては全然別物だと思った方がいい。ピアノとキーボードが全然別物の楽器であるように、フルートやサックスとEWIは全然違う。だから、EWIを使ってやる練習は、あくまでもEWIのための練習だ。
 EWIの演奏は難しい。「すぐに音が出るから簡単」みたいな記事を時々見るが、嘘だ。そりゃ電子楽器だから音はすぐに出るに決まってるが、だからってEWIが簡単な楽器で誰でもすぐT-SQUAREみたいな演奏ができるかのような印象を人に与えるようなことを気軽に言わないで欲しい。EWIの特性を生かした高いレベルの表現をするためには、それなりに研究と鍛錬がいる。特に、あのタッチセンサーのキィと、オクターヴ切替のローラーキィやポルタメント演奏のためのベルト部分、そしてサックスで言えばサイドキィあたりにあるドローン音を鳴らすスイッチの操作には慣れるのに時間がかかった。あと、パームキィがないことにも。今でも時々、スケールで2オクターブ駆け上がった先に左手がパームキィを探して空中をさまようことがある。パームキィ、あると便利なんだけどな。AKAIさん、パームキィ、つける気ない?
 しかし、一旦操作に慣熟してしまえば、EWIはなかなか便利だ。生楽器と同様にベンドもビブラートもできるし、息の圧力変化で音量を変えるも思いのままだ。管楽器奏者のための電子如意棒。僕はEWIのことをそんな風に思っている。

 ホルンの指導はうまくいったように思う。彼らの「in Fの譜面をin C(実音)に読み直し、Bb管を使って吹く」というしまなみ海道的な発想は、僕にはよく理解できないし、瞬間的にポジションを指摘することもできないのだけど、少なくとも必要な音だけは教えることができた。そのうち理解できるのかな? その日まではとりあえず、道具に頼ることにしよう。