笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

酒心館

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身の内に酒がなくては生きておれぬ、

葡萄酒なくしては身の重さにも堪えられぬ。
酒姫がもう一杯と差し出す瞬間の
われは奴隷だ、それが忘れられぬ。

 

ルバイヤート」 オマル・ハイヤーム/小川亮作(訳) 岩波文庫

 

 神戸は酒蔵の街だ。
 四十三号線の海側には大石あたりから西宮までずっと、酒造工場が建ち並ぶ。石油化学工場かと思うような巨大なタンクの並ぶ工場だ。あの鈍い銀色に輝くタンクの中が酒で一杯なのかと考えると楽しい。あのタンクひとつだって、僕が一生に飲み干す量よりもずっとたくさんの酒が入っているだろう。一度、あのタンクを傾けてぐいぐいと酒を飲んで見たいものだ。水位が一センチも下がらないうちに、僕は出来上がってしまうだろうけど。

 若い頃はビールばかり飲んでいた。それがいつからか、日本酒しか飲まないようになった。別にビールが嫌いになったわけじゃない。外で友人と飲むときは今でもビールが多い。でも家で、寝際に一口飲むのは、ビールじゃなくて日本酒だ。寝酒は体によくないと知りつつも、グラス一杯の日本酒を、音楽を聴いたり本を読んだりちょっと書き物をしたりしながら飲むと寝つきがいい。

 僕は、醸造アルコールを加えてある清酒だと、二日酔いになりやすい。大吟醸だとか高価なものは毎日飲めない。香りが華やかすぎると、飲んでいる途中で辛くなる。すっきりしすぎていると物足りないし、甘すぎるとしつこい感じがする。だから、僕は純米が好きだ。冷やすと飲み過ぎるし、燗だと香りが強すぎるので、いつも常温でやる。
 夏場に常温で飲んでうまい酒って、あんまりない。酷くぬるい燗、ぐらいの温度でも飲める日本酒を探し求めた結果、僕は福寿の純米を常飲の酒とすることに決めた。この酒はいい。米の香りがしっかりするけれど、華やかすぎず、どの温度帯でもきちんと味がする。酒に苦みや酸味を求める人には物足りないかもしれない。ただそういう酒を、四季を問わず一年中飲み続けられるかというと、僕にはちょっと苦しい。僕にとっての、中庸の最上・・・それが福寿の純米だ。

 いつも酒蔵に行って一升瓶を買ってくる。もう何年も買い続けている。近頃、また少し値上がりした。うーん、ちょっと困る。事情は色々あるのだろうけど、できればお値段据え置きでお願いしたい。いつまでも、僕にとっての中庸の最上であってほしいと、切に願う。


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