笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

もう一度、須磨

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 四月から新しい職場に移る。勤務時間もかわる。今までのように、午後にふらりと須磨の海岸に立ち寄るというわけにはいかなくなった。そうなる前に一度くらい須磨に寄れるかなあ、なんて腕組みしながら日々を送っていたけど、用事と仕事の間に少しだけ隙間の時間ができた。スーツ姿のまま、車をコインパーキングに放り込んで、僕は須磨の海岸を歩いた。
 春と冬が行き交う、節目の季節だ。北風と雨の日が数日続いた後の、うららかな晴れの一日。アポロンからのごほうびみたいな午後だった。須磨の海岸には、卒業式を終えた学生グループがいくつもあった。こんな光景は久しぶりに見たような気がする。パンデミックに世界が沈黙して以来、砂浜がこのように明るかったことはなかった。嬉しかった。春の砂浜は、こうでなくては。

 もちろん、コロナ騒ぎが終息したわけではない。今月初頭に緊急事態宣言が解除されはしたが、まるで待ち構えていたかのように感染者数は増加する方向に反発した。しかしその一方で、日本にもようやくワクチンが届くようになり、現在は医療従事者から順番に接種が進んでいる。防戦一方だったウィルスとの戦いにおいて、人類はようやく反撃の狼煙をあげることができたのだ。さて、ウィルスが勝つか人類が勝つか。まだ何の見通しもないけれど、僕たちはもう、やられっぱなしってわけじゃない。そう考えると、勇気がもてる。状況は厳しい。まだまだ予断を許さない。しかし、希望を捨てるのは、もうちょっと頑張った後でもいい。
 吹奏楽の指導のお手伝いをさせてもらっている中学校は先だって、卒業式と終業式を終え、吹奏楽部は年度の最後にアンサンブルの発表会を行った。どれも、去年の三月には難しかったことだ。これらの行事が予定通り行われたことの意義は大きい。あれもこれも一切合切中止だった去年とは違うのだ。

 風はまだ冷たい。けれど、その風は南から吹いてくる。そして日差しは明るく、あたたかい。今年の春は、去年よりずっと、あたたかい。

 

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肌水


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 資生堂の「肌水」という商品を長年愛用していた。高校生ぐらいの頃からアフターシェーブローションとして使っていたから、もう30年近く使い続けていた。特に問題を感じたことはなかったからまだまだ使いたかったのだけど、今使っているボトルが空になったので薬局に買いに行ったら、商品棚から消えていた。調べてみると、ディスコンになったらしい。
 肌水はとても気に入っていた。香りがほとんどなく、さらりとしている。温泉や銭湯の備品でよく見かけるアウスレーゼなんかは香りが強く、べたつきが強いので好きではない。ほとんど水とかわりなく、廉価で、しかしちゃんと髭剃り後のヒリつきを抑えてくれる肌水は素晴らしい商品だった。もう手に入らないのは残念でならない。資生堂のホームページを見ると、代替商品としてウーノが紹介されているので買ってみた。うーん、これはアウスレーゼに近いかも。先だってイオンに買い物に行ったら肌水に似たトップバリュの商品があったので、次はそれを試してみようと思っている。

 近頃は、普段使っていた商品が手に入らなくて代替品を探し歩きさまよう人のことを「○○難民」と言うらしい。僕はアフターシェーブローション難民だ。

 使い慣れたものが突然なくなるのは、困る。特に、日常生活に欠かせないものが手に入らないのは辛い。なるべく似た雰囲気の代わりを探すのだが、どれも一長一短で、なかなか最適なものは見つからないというのが通例だろう。先だってダントンのことを書いたときにあげたラブルールのワークジャケットもそうだ。そして靴のことを言うと、僕はメレル・ジャングルモックとアディダス・スーパースターの愛用者で、ヘビーリピーターなのだが、近頃アディダスの方がABCの店先から消えた。Amazonでも価格が高騰している。ひょっとしてこれもディスコンか。だとしたら、とても困る。

 モノが時代の流れに従ってアップデートされていくのは自然なことなのだろう。しかし、それを頭では理解していても、肌の感覚としては中々納得できない。モノの進化の流れから落ちこぼれて、あっぷあっぷと溺れ喘いでいる僕は、時代の難民だ。

西郷川河口公園


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 HAT神戸と呼ばれるエリアの東端あたりに、西郷川河口公園はある。ここには早咲きの川津桜の木があり、3月上旬から半ばにかけて花が咲く。
 この公園は、僕の家から行こうと思うと少し遠く、また交通の便も悪い。だからあまり行かないのだけど、先だって知り合いがここを訪れた時に撮った写真を見せてくれて、川津桜があまりに見事だったのでちょっと行こうかという気になった。
 阪神春日野道駅から南下し、赤十字病院を通り過ぎて運河沿いの遊歩道に出る。天気はいい。マフラーをしていると首がじっとりと汗ばむ陽気だ。静かな運河の風景を眺めながらゆっくりと歩く。春先のこんな日、以前ならもっと散歩中の近隣住民やジョギングを楽しむランナーの姿を見たものだが、緊急事態宣言が解除されたとはいえまだコロナの脅威の去らぬ神戸、人影は少ない。少し寂しい。
 県美のあたりでHATを東西に貫くメインストリートに戻ってさらに東進。新設の公立小学校の建物の隣が西郷川河口公園だ。
 残念ながら、花はもうほとんど散り去って葉桜になっていた。知り合いは、ほんの一週間ほど前にここに来たと言っていたっけ。花の命は短い。菜の花は元気に咲いているが、桜を見るために来た僕としては、ちょっとがっかりだ。

 川津桜と言えば、伊豆。
 横浜に住んでいた頃、伊豆には何度かバイクでツーリングしたことがある。しかし、桜の季節に行ったことはない。伊豆の川津桜は見事だと聞く。一度桜の季節に行ってみたいものだとは思うけど、仕事や家の用事のタイミングもあって実現しなかった。花の都合に俗世の都合をあわせるのは難しい。神戸に移り住んだ今となっては、もはや伊豆に行くこと自体が至難の業だ。
 行きたい場所も見たい風物も、僕にはまだたくさんある。桜に限定して言えば、五稜郭と吉野には絶対行ってみたいと思っている。もちろん、どちらもまだ見ていない。いつ見られるだろう。子どもがひとりだちした後なら行けるだろうか。そのときにまだ、旅行しようと思えるくらい元気だといいのだけど。

 川津桜を見逃したのは残念だが、まだソメイヨシノがこれから咲くだろう。近所の公園の桜の枝先では、つぼみがふくらんできているのを先だって確かめた。今年の開花は早いかも知れない。
 咲け、咲け、桜。咲いて、桜吹雪にになって、舞い上がれ。コロナなんか吹き飛ばしちゃえ。散ったら、茂って枯れて、また咲けばいい。僕が見に行くまで、そうやって待ってろよ。


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